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作曲家志望の方が、アイドルに向けて“いかにも”なアイドルソングを書いてしまうこと、よくあります。若い方も、そうでない方も、最初はその“間違い”をやってしまいがちなんです。
でもね、アイドルに向けてアイドルソングを書いていいのは、ごく一部のエリート作曲家だけです。これは、僕が何年もかけて現場で見てきたうえでの実感で、間違いありません。
もう一度、言いますね。アイドルに向けてアイドルソングを書いていいのは、ごく一部のエリート作曲家だけ。「成瀬クラス」のポンコツ作家は、まず“普通に良い曲”を書こうよ。
アイドルに曲を書くというのは、そこにお化粧や装飾が加わって完成するもの。でも、まだ曲作りの基本が身についていない段階で、そういったお化粧に意識が向いてしまうと、ゴテゴテして中身のよくわからない曲になってしまうことが、本当に多いんですよ。
エリート作家の書くアイドルソングというのは、まず曲そのもの、メロディーそのものが素晴らしい。その上で、お化粧や装飾が施されているからこそ、魅力的なんですよね。そこに目を向けてみて。だからこそ、まず目指してほしいのは「良い曲」を書くこと。ピアノ一本、ギター一本で聴いても美しいと思えるような楽曲。それが絶対的な基本です。
バンドをやっていた方がコンペで結果を出しやすいのも、実はここが理由だったりします。バンドというのは、限られた編成でアレンジを工夫する必要がある。ドラム、ベース、ギター、キーボード。この基本編成だけで曲を仕上げていくスキルは、本当に大きな力になります。
一方で、DTMから音楽を始めた方や、青春時代にアイドルソングばかりを聴いていた方は、「お化粧」に頼りすぎてしまい、曲そのものの良さをないがしろにしてしまう。そうなると、編成がシンプルになったとたん、その曲の“つまらなさ”が露呈してしまうんです。
本質を、しっかり見てほしい。だから僕はいつもこう言っています。
「乃木坂の採用をとりたいなら、乃木坂を追いかけるな」
そのまま真似するのではなく、乃木坂の表題曲を生み出した作家たちが、何を聴いて育ったのかを辿ってください。さらに言うと、彼らに影響を与えたアーティストの、そのまた源流まで遡って聴いてみてください。
そのうえで、あなた自身のフィルターを通して、令和のアイドルソングを新しく創り出すこと。この意思こそが、現状を打破する道だと僕は考えています。そして結果的に長く続けられるソングライターになる近道だと思います。
まずは、いい曲を書こう。ピアノ1本でも、ギター1本でも、美しいと思える曲を。お化粧はそのあとでいい。まっすぐなメロディが、ちゃんと聴こえてくるなら大丈夫。焦らなくていいんだよ。長く続けるために、今やるべきことはシンプルなんだから。
おはようございます。昨日はラジオ番組『POP A to Z』の収録をしておりました。現在放送中の特集「グレート・ソングライター・ファイル」、ついにキャロル・キング&ジェリー・ゴフィンの巻!
この「グレート・ソングライター・ファイル」で取り上げているアメリカのソングライターのなかでも、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンは、J-POPにもっとも直接的な影響を与えている存在かもしれません。そして何より、「シンガーソングライター」という言葉そのものが、彼女のために生まれたといっても過言ではありません。つまり、私たちが普段何気なく使っている「シンガーソングライター」という言葉は、もともとキャロル・キングを指していたのです。
そして、ポップスの源流とも呼べる最重要曲が、彼女とゴフィンが手がけた『Will You Love Me Tomorrow』。シュレルズが歌い、黒人ガールグループとして初の全米No.1を記録したこの楽曲は、ビートルズ登場以前のポップスの原点とも言える一曲です。
この曲の成功で、まだ10代だったキャロル・キングとジェリー・ゴフィンは一躍スターソングライターとなりました。その後、ふたりはしばらく黄金期を過ごしますが、そのアメリカンポップスの時代を塗り替えてしまったのが、イギリスからやってきたバンド──ビートルズでした。
ビートルズは自分たちで曲を書き、自分たちで演奏し、自分たちで歌いました。専業作曲家が必要なかったのです。その作曲クレジットは「レノン=マッカートニー」。これは、キング&ゴフィンやリーバー&ストーラーといったソングライターチームへの憧れから生まれた、「どちらが書いても二人の名前で発表しよう」という約束に基づいています。つまり、キャロル・キングたちは、後に自分たちに影響を受けた若きアーティストたちに仕事を“奪われて”いくわけです。その皮肉さも、音楽史としてとても興味深いものです。
ですが、キャロル・キングはそこで終わるような人ではありませんでした。60年代にはモンキーズなどに楽曲を提供しつつ、しだいに自ら歌う方向へと(本人は最初は乗り気ではなかったようですが)シフトしていきます。1968年には「シティ」というバンドを結成。これは隠れた名盤として知られ、私も常にターンテーブルのそばに置いているほどのお気に入りのアルバムです。
そしてついに、ソロシンガーとしてデビュー。ジェームス・テイラーやジョニ・ミッチェルと並び称されるようになり、「シンガーソングライター」と呼ばれるようになりました。ただし彼女の場合は、もともと作家であり、「作家が歌うようになった」結果としてのシンガーソングライターだったのです。歴史の流れで言えば、ビートルズが解散し、華やかで政治的だった60年代が終わったあとの「内省の時代」。またここで、ポップスの登場人物たちが入れ替わるのです。面白いですよね。
そんな彼女が世に送り出したセカンド・アルバムが名盤『Tapestry(つづれおり)』。もはや説明のいらないほど有名な一枚ですが、それでもお若い方や洋楽をあまり聴かない方の中には、まだ知らないという人もいるかもしれません。私は声を大にして言いたいのです。「どんなビートルズやビーチ・ボーイズや、その他の名盤よりも、まずはこれを聴いてください」と。特にソングライターを目指す方、いい曲を書きたいと思っている方には、なおさらです。
このアルバムが素晴らしいと感じられるようになること──その心のチューニングこそが、「普遍性」を理解する第一歩になると私は思っています。なぜなら『Tapestry』は、全世界で2200万枚以上を売り上げ、今なお数えきれないアーティストに影響を与え続けているからです。その影響は、世代を超えて広がっています。
このアルバムには、R&Bやガールズポップ、そして内省的なシンガーソングライターの要素までもが凝縮されています。先ほどの『Will You Love Me Tomorrow』のセルフカバーや、アレサ・フランクリンに提供した『(You Make Me Feel Like a) Natural Woman』なども収録されています。
そんなキャロル・キングとジェリー・ゴフィンの特集を、たった30分にまとめるのは正直とても難しかったです。私は彼らの大ファンで、これまで7年の番組の中で何度も彼らの曲をかけていますので、曲の重複を避けるのも至難の業でした。だから今回は、初めてキャロル・キングを聴く方のために、選曲を一から見直しました。
今週土曜日、22時30分から放送の『成瀬英樹のPOP A to Z』。「グレート・ソングライター・ファイル」特集、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン。ぜひ楽しみにしていてくださいね。
そして夕方には、新しい曲の作曲生配信も収録いたしました。ナッポさんが制作されたトラックに、私がメロディーをのせていくというスタイル。かなりマニアックな内容にはなりましたが、トップライン制作に関心のある方には、きっと参考になる部分もあると思います。
続けて、『BINGO! AID 2025』のためにsproutさんが書いてくださった歌詞に、メロディーをつけていきました。こちらはいわゆる「詞先(しさき)」のスタイルです。詞先で曲を書くことは、作曲の基本を見直すうえでもとても大切なレッスンになると私は考えています。
そもそも日本のポップスというのは、詞先が主流だった時代が長かった。詞を読んで、その世界観を音楽で表現する。とてもシンプルですが奥深く、だからこそ作曲力が鍛えられる。特に初心者の方にとっても、大きな気づきを与えてくれる手法だと思っています。
今回の制作でも、とてもいい曲が生まれましたよ。お楽しみに!それでは、お互いに今日も一日がんばっていきましょう。どうぞよろしくお願いいたします。
野球仲間のMOBYとの動画が好評で、とても嬉しく思っています。自分でも何度も見返してしまうほど、面白い動画になりました。野球好きの方なら、きっと一緒に楽しんでもらえるはずです。
何より、この二人の——まあ、言ってしまえばおじさんミュージシャンが——少年のように大好きなものを語るというのは、なかなか貴重なもの。僕自身、人前でここまで野球のことを語ったのは初めての経験でした。とても楽しく、大切な時間になりました。まだご覧になっていない方は、ぜひ観ていただけたら嬉しいです。
2017年、僕がDAZNの解説者になった時、最初にしたことはiPad Proを買うことでした。そのiPadを、つい先日まで8年間使い続けていました。物持ちがいいにもほどがありますね。画面が割れてもガラスを貼り、ボロボロになって娘に「買い替えないの?」と笑われながらも、手放せなかった。理由は単純で、愛着があったからです。
2017年の1年間、楽しくも大変だったDAZNの解説で、共に過ごした相棒のような存在のiPad Pro。ライブでは譜面がわりに、カフェで原稿を書くときはタイプライターがわりに。僕の仕事を支えてくれました。そんなiPadをついに手放し、新しいiPadを購入しました。これからはこいつが僕の仕事をしっかり支えてくれるはずです。
昨日は、その新しいiPadでスコアをつけつつ、エスコンフィールドで試合を観戦しました。基本的に、僕はいつも一人で観ています。もちろん、北海道に友人が来たときは一緒に観戦することもあります。去年も何組かの友人が札幌に来てくれた際、エスコンで一緒に試合を観ました。でも、基本は一人です。
で、昨日ね、試合を観ている最中、ふと寂しさを感じました。「俺、ここで何をしているんだろう」と、ふっとね。
昨年、北海道に移住したばかりの頃も、同じような気持ちになったことを思い出します。当然ですよね、誰も知った人のいない街で一人で暮らすことは、なかなかのことです。そんな時期にエスコンフィールドで、当時まだ名前もよく知らないファイターズの選手たちを見ながら、一人ずつ覚えていきました。毎日通ううちに、彼らは僕の寂しさを埋めてくれる、家族のような存在になっていました。そんな彼らが戦いの中で力をつけていき、ドラマチックなシーズンを過ごしたんだ。目が離せないのも当然でしょう。
今年もまた、こうして時折寂しさを感じることがあるのでしょう。でも、それでいいんです。
札幌には、知り合いも友人もほとんどいません。顔見知りといえば、せいぜい通っているカフェのオーナーくらいのもの。それでも僕は積極的に作ろうとも思っていない。なぜなら僕は「一人になるために」ここに来たのです。じっくりと物を考え、クリエイティブに集中するために。ここからの4、5年は、僕にとって本当に大切な時間になる。腰を据えて、作品を作りたい。音楽に限らず、文章を書くことも含めて。
とはいえ、札幌に来てからというもの、ありがたいことに弊社BINGO!の仕事が順調で、楽曲のご依頼やコンペも順調だったりして、想像以上に忙しくなっています。おかげさまで、今も多くの締め切りを抱えています。とても嬉しいことです。皆さん、どうぞ楽しみに待っていてくださいね。いい作品を書きます。
仕事をしている間は、寂しさを感じる暇はほとんどありません。そもそも、僕は「何かから逃げるために」ここに来たわけではない。自分の意思で選んだ道です。家族や友人とはオンラインで繋がっているし、BINGO!のメンバーもいます。ただ、シンプルに、隣に誰もいないという事実が、時折無性に寂しくなるだけです。
でも、その「孤独」が、僕にとっては創作に欠かせないものだということを、これまでの人生で痛感してきました。人は、深い寂しさの中からこそ、何かを生み出せるのではないか。少なくとも、僕はそう信じています。
さて、春がやってきます。BINGO!の新プロジェクトも動き出します。今日はラジオの収録を終えたら、配信も予定しています。タイミングが合えば、ぜひ生でご覧ください。もちろん、アーカイブでも楽しんでいただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
BINGO! メンバー限定配信です!