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「A1グランプリ」が暴いた真実と、持たざる者の生存戦略
BINGO Songwriting Club 「成瀬英樹ゼミ」 メンバー マイソングプラン 成瀬英樹ゼミ マンスリープラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
12月29日 17:14

「A1グランプリ」が暴いた真実と、持たざる者の生存戦略


 

――まずは「A1グランプリ」、予選お疲れ様でした。参加者への連絡等は進んでいますか?
 

成瀬: ええ。全出演者へのお礼と、決勝に進んだ作家さんへのコンペ詳細はすでに送信済みです。ただ一人、「たのも」さんだけメールが戻ってきちゃったんで、X(旧Twitter)でお知らせしました。もし他にも「届いてないよ」って方がいたら、至急連絡をください。ちゃんとしたアドレスに送ってるはずなんですけどねえ(笑)
 

――(笑)。それにしても、かなりの盛り上がりでしたね。
 

成瀬: そうですね。ご覧になった方にもこの面白さが伝わっていれば嬉しいです。何より、出場した皆さんは相当ヒリヒリしたんじゃないですか? 成瀬ゼミやマイソングプラン、BINGO Songwriting Clubからのエントリーはもちろん、外部からの果敢なチャレンジもあって。審査する側も大いに楽しませてもらいました。
 

――全体のレベルはいかがでしたか?
 

成瀬: 正直に言っていいですか? ……みんな、真面目すぎるんですよ。そんな優等生みたいな顔してちゃ、この業界の詐欺師みたいな作曲家たちには勝てやしませんぜ。
 

――厳しいですね(笑)
 

成瀬: 事実ですから。今回の入賞トップ2組には、まだ稚拙ながらも明確な「ルーツ」と「スタイル」が感じられました。でも、それ以外の方は「なんとなくいい曲」を書いているだけで、飛び抜けた人がいなかった。「今回たまたま出来が良かったか、そうでもなかったか」、その程度の差しかありませんでしたね。
 

――「いい曲」なのにダメなんですか?
 

成瀬: ダメです。「ふつうにいい曲」なんて誰でも作れる時代なんですよ。いったいあなたの「何」を表現したいのか。それを考え続けないと。「地位」を築いたアーティストたちが、どんな経緯で世に出てきたのか徹底的に研究してほしいですね。そうすれば「プロデュースする視点」が生まれる。「今のあなた」をプロデュースして世に問えるのは、あなたしかいないんですから。
 

――なるほど。AIを使ったコンテストですが、結局は「人間力」が問われたと。
 

成瀬: そういうことです。今回の「A1」は、本質的にはAIのコンテストじゃなく、「楽曲の強度」を競う場になりました。みんな同じ「刀(ツール)」を持ったわけでしょう? 逆に言えば、道具が同じだからこそ、言い訳がきかない。ソングライティングの根幹や、その人の「真の実力」が残酷なほど見えてしまう。でもだからこそ、下克上も起きやすいんです。
 

――チャンスでもあるわけですね。
 

成瀬: 今までいろんな理由で認められなかった「小さな才能」を世に問うなら、今しかないですよ。はっきり言いますが、AIがもっと普及したらどうなると思います?
 

――どうなるんでしょう?
 

成瀬: すでに才能と地位を持っている人たちの「一人勝ち」になります。これは間違いない。「すごいやつ」にAIが掛け算されるんだから、勝てるわけがない。だからこそ、その「持っている奴ら」が本気で気づく前に、僕はみんなにそっと教えてるんです。「今のうちに、早く全振りしろ」って。
 

――AIに全振りしろ、と。
 

成瀬: ええ。AIはズルをする道具じゃない。今回きっちり差がついたのがその証拠です。もし自分が「持っていない側」だと思うなら、四の五の言わずにAIにベットすべきです。そして、「気がついた人」たちと一緒に実験していきたい。結局のところ、目指すのはソングライターとして一流になること。それは一生かけて追いかけるものですからね。

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年末感のない年末
成瀬英樹
成瀬英樹
12月26日 14:30

おはようございます!!

 

「A1グランプリ」の締切が本日でした。たくさんのエントリーに、心から感謝いたします。僕自身も審査員という立場ではありますが、音源を事前に確認することなく、そのまま予選会に臨みます。ぶっつけのほうが、やっぱりおもしろいですものね。

 

基本的には、すべての楽曲を生配信で聴きながら、ブラッシュアップのご提案をさせていただいたり、感想をお伝えしつつ、最終審査に残る「10組ほど」を決定していきます。審査の基準はとてもシンプルで、「一緒に仕事をしてみたい人」。決勝では「お題」に向けたコンペになりますからね。

 

明日12月27日(土)20時から、生配信を予定しております。A1グランプリの最初の「音」が鳴る瞬間です。ぜひ、お楽しみに。

 

昨日もそんなわけで、ゆっくり過ごさせていただきました。今、ゼミ生のみんなの顔を見てしまうと、何か別の感情が生まれてしまう(A1、がんばってますか? 大丈夫ですか? ってね)ので、A1期間中は、少し距離を置かせてもらっています。

 

ご応募数は19曲。いやあ、実にちょうどいい。これ以上多かったら、「全曲予選生配信」というコンテンツ自体が成立しなかったかもしれないし、生配信まであえて試聴しなくても、粗製濫造を心配する必要はないと感じています。あくまで直感ですが、今回はその直感を信じています。

 

ここから、そうですね、半分くらいの方に絞らせていただくことになると思います。それも実際に音を聴いてから、審査員のみなさんと相談しつつ、丁寧に進めていきます。

 

いつものカフェで、これを書いています。暖かい店内。外では、激しめの雪が降り出しました。娘に「来月そっち行くよ」とLINEしたら喜んでくれて、こっちまで嬉しくなります。小沢健二さんの『悪女』は最高です。

年末感のない年末です。

2000年の歌声とAIトラックの融合。『神戸珈琲物語』とビートルズと滑らない靴
成瀬英樹
成瀬英樹
12月25日 12:52

おはようございます!
 

昨日のクリスマスイブ、みなさんいかがお過ごしでしたか。僕は静かに音楽を聴いて過ごしましたよ。スタン・ゲッツとか、ソニー・ロリンズとか、それこそビル・エヴァンスとか、そんなものを聴いていたかと思えば、いきなりビートルズの最新ミックス『赤盤』をじっくり聴き込んだり、『アビー・ロード』に舌鼓を打ったりね。新しいミックスの『アビー・ロード』も、久しぶりに聴くと、なかなかいいですね。
 

それもこれも新しいイヤフォンに感覚を馴染ませるためです。古いレコードの音もこのイヤフォンで聴くと新しい発見があるんだよね。
 

さて、昨日今日あたりの僕の街は、積もった雪が一旦氷化して、スケートリンクを歩いてる状態にならざるを得ない局面もちょいちょい出てきてます。そんな時、僕の新しい「滑らないアシックス」の登場だ。
 

僕の「アシックス」には底面に秘密があって、それがどんな秘密だったか言語化できるくらいには覚えていないんだけど、アシックスの店員さんによると「ガラス的な何かが底面の秘密であり、それらはほとんどの場合、氷上でも滑ることはない」という意味の総体を僕に伝え残してくれた。彼女が言うように、今年僕はまだ一度しか転んでいない。
 

さて、昨日公開になった僕たちFOUR TRIPSのニューリリース、楽しんでもらえましたか? まだの方はぜひ。クリスマス限定で公開して、明日からは「限定公開」にする予定です。引き続き聴きたい方はリンクをブックマークしておいてくださいね。



 

この『神戸珈琲物語』は2000年のあの悪名高き「沖縄修行時代」に書いた曲です。aiちゃんのメロディに僕が歌詞をつけた。当時作ったデモはロン・セクスミスの曲のブレイクビーツを使ったシンプルなものだった。そのデモから抜き出したボーカルと、Suno AIで生成したソウルっぽいトラックを初田くんにミックスしてもらったのだ。とても気に入っています。
 

それにしてもですよ。この「編み物をする老婆の向こうで、暖炉の炎が揺れている」動画は、ゼロから作って数十分で完成しました。AIのサブスクに課金はしましたが、ほとんどタダみたいなものです。それに、「なるほどこれはこうやって使えば長い動画にすることもできるな」という気づきももらえましたよ。
 

だってさ、半年ほど前にリリースしたこの動画、図案は僕が生成したものだけど、この「目を動かす」だけで数万円必要だったんだよ。これに数万払っていたんだ……わお。何時代やねん、って思うよね。
 

いよいよ明日、「A1グランプリ」の締め切りです。明後日27日の20時とかくらいから、予選生配信もやりますからね。どんな曲が集まるのか、とっても楽しみです。
 

そんなわけで、年末年始はありがたいことに色々と忙しくなりそうです。今日もゆっくり美味しいものでも食べて、図書館にでも行きます。

クソタレな気分蹴飛ばしたくて
成瀬英樹
成瀬英樹
12月24日 11:07

いいかい、これからは昨日の話をしようと思う。別に僕の生い立ちとか、デヴィッド・カッパーフィールドみたいな退屈な話をするつもりはないよ。ただ昨日、僕が何を感じたかって話だ。
 

朝、録画してた王貞治さんのドキュメンタリーを観たんだ。王さん、85歳だぜ。それなのに、まるで聖人みたいな優しい顔をして、子供たちに野球を教えてるんだ。それを見てるだけで、なんだか胸の奥がグッときちゃってさ。僕は巨人のファンとかそういうんじゃ全然ないけど、王さんだけはやっぱり別格なんだ。今の子供たちにとっての大谷翔平みたいなもんさ。正真正銘のヒーローなんだ。昭和43年生まれってのはそういうものさ。
 

番組の最後の方で、インタビュアーが「どうして王さんはそんなに野球が好きなんですか?」なんて、いかにもな質問をしたんだ。そしたら王さんは、なんと食い気味にこう言った。「それは難しいからだよ」ってね。 いいか、「楽しいから」じゃないんだぜ。「難しいから」夢中になるんだってさ。それを聞いた瞬間、なんだかわかんないけどさ、僕は救われたような気がしたんだ。
 

テクニクスの新しいイヤフォンを買った。AZ100っていう評判のやつだ。音を聴いて、僕はぶったまげたよ。なんてったって深みがあるんだ。今まで一体何を聴いていたんだろうってくらいだよ。でもね、そのせいで気づいちまった。僕の左耳の調子がまたちょっとおかしいってことに。
 

気休めにiPhoneアプリの聴力検査をやってみた。経験というのは恐ろしいもので、見事に予想通り、左耳の高い帯域の聞こえが良くない。 僕は昔からそうなんだ。強いストレスを感じると、すぐに耳にきちゃう。TRFやAAAの仕事が決まった時もそうだし、『君はメロディー』の時もそうだった。自分にとって最高に素敵で、デカいチャンスが来たときほど、僕の体はビビって耳を塞ごうとするんだ。皮肉な話だろ? 逆境の時はピンピンしてるくせに、順風満帆になるとこれだ。
 

ま、「だいたい聴こえてたらいいんだよ」くらいに、鷹揚に考えることにしたんだ。強引に四捨五入したらもう60歳だぜ、多少は聞こえも悪くなろうってもんだよな。それに耳ってのは、酷使しすぎるくらいに酷使してきたからね。 新しいイヤフォンのLから高音でタンバリンが聴こえると幸せな気持ちになる。エレピのナイスなオブリガートが聴こえてきたら、もう何もいらない。大丈夫。聴力検査なんて、気にする必要はないぜ。
 

だから昨日は、レッスンを全部キャンセルさせてもらった。それに、ゼミ生たちも一年の、いやここまでの作曲修行の発表&力だめしの場である「A1グランプリ」を控えてる。彼らに余計な手出しをしないという意味では、時期としてはちょうどよかった、とも言えるかもしれないな。
 

そう。ゼミ生だろうが、そうでなかろうが、Sunoという同じツールを使っての勝負「A1グランプリ」。ゼミ生以外のメンバーからも楽曲が届いてる。もちろんBINGO以外の方からもな。「いい曲かどうか」、それが全ての審査対象だ。 石崎”バッハ”光、白井”アヴァンチュール”大輔、そして成瀬”君メロ”英樹というタイプの違う作曲家が、それらの曲にどのような感想を抱くのか。楽しみにしててくれよな。予選生配信は12月27日の夜にやる予定だからさ。
 

そんなわけで昨日の午後、僕はバスに40分揺られて、アウトレットまで行った。ずっと履きつぶしてるリーバイス501のポケットに穴が開いてたから、修理に出すためさ。 修理代は6,000円だった。数件先にリーバイスのショップがあったから覗いてみたら、新品のブラック501がセールで5,500円で売ってた。 修理するより新品を買うほうが安いんだぜ。笑っちまうよな。
 

でも、僕は結局6,000円払って、穴の開いたやつを直しつつ、新しい501も一本買ったんだ。どうしてかって? うまく言えないけど、たぶんそれが僕なりの「付き合い方」なんだろうと思う。あと、501をずっと履き続ける理由も、自分ではわからないんだ。
 

家に帰ったら、小沢健二さんの日比谷野音でのライブアルバムが届いていた。アナログオンリーで発売されたもので、いわゆる「卓から直」のライン音源。主にミュージシャンたちが演奏確認用の「同録」をそのまま出したものだ。 音のバランスも、もちろんミックスも修正できないから、これはものすごく「生」な音源なんだよ。そういえば、あの名作『ジョアン・ジルベルト/ライブ・イン・トーキョー』も「同録」をそのままリリースしたものだったな。
 

そうなんだ、僕にとって小沢さんは「今、ここにあってほしい音楽」を聴かせてくれる人なんだ。この人のメッセージを受け取ることができる世界が当たり前のものじゃないって僕たちは知っているから、余計に感じ入ってしまうんだよ。この凸凹した美しい一瞬の演奏に。小沢さんの最高傑作だよ、まったく。これをアナログオンリーで出すってのが、それこそが、小沢健二なんだって思うよ。
 

知ってるかい? 小沢健二さんと僕は同じ年に生まれたんだ。だからどうって話じゃないんだ。ただそれだけさ。いや、きっと彼も、王さんのホームランに胸ときめかせた子供だったんじゃないかなって考えたら、ちょっとだけ嬉しいじゃないか。

「あの4分間は、聖域であるべきだ」
成瀬英樹
成瀬英樹
12月22日 8:57

「あの4分間は、聖域であるべきだ」――吉本時代に見た“芸人の生存本能”と、M-1への切実な願い

 

――昨日のM-1グランプリ。成瀬さんは2001年の第1回から欠かさず見てこられたそうですが、今回初めて「途中離脱」をされたと。

 

成瀬 そうなんです。20年以上、一度も目を離したことはなかった。でも、今回はどうしても耐えられなくなって、初めてテレビを消しました。つまらなかったわけじゃないんです。むしろ「面白いのに、集中できない」という、作り手側としては一番厄介な理由かもしれません。

 

――その原因は、カメラワークにあるとお聞きしました。

 

成瀬 ええ。漫才の最中に、審査員のリアクションへカメラが切り替わる。あれが本当にストレスで。僕たちは漫才師が作り出すテンポに身を委ねて、言葉を追い、間を味わっている。その最高潮の瞬間に突然カメラがパンして、審査員の笑顔が映る。画面が戻った時には、もう「一番大事な瞬間」が終わって、客席がドカッと沸いているんです。

 

吉本興業で目撃した、中川家たちの「サバイバル」

 

――成瀬さんはかつて、ご自身のバンド「FOUR TRIPS」で吉本興業に所属されていましたよね。

 

成瀬 そう、実は僕ら、吉本にいたんですよ。言わば、第1回王者の中川家さんたちとは同期なんです。あの頃、お笑いの人たちがどれほどシビアな世界で、文字通り「命を削って」生き残ろうとしているか。そのサバイバルを間近で見ることができました。

 

――その経験が、今の成瀬さんの根底にあると。

 

成瀬 間違いありません。僕の今の競争原理、あるいは表現者としての根幹は、あの時見た芸人たちの執念にあるんです。彼らにとっての4分間は、単なるネタ披露じゃない。人生をひっくり返すための、剥き出しの真剣勝負です。だからこそ、そこに「ほら、審査員も笑っていますよ」なんていう余計な“解説カット”はいらないんです。

 

「お墨付き」の演出は、M-1の精神に反する

 

――作り手としては、「みんな笑っていますよ」という安心感を届けたいのかもしれません。

 

成瀬 でも、それはM-1の精神から外れていると思う。漫才師が4分間、自分たちの表現だけで勝負する場所なんですから。記録として残る映像なのに、彼らが考え抜いた最重要のアクションが、審査員のカットで永遠に失われてしまう。これほど残酷なことはありません。

 

――結局、一度離脱したあとに戻られたのは、やはり気になったからですか。

 

成瀬 1時間くらいして、やっぱり寂しくなっちゃってね(笑) 戻った後のM-1はしっかり盛り上がっていたし、最後の3組は本当に面白かった。優勝したコンビも、技術云々の前に、立っているだけで面白いし、好感が持てる。あれは一種の才能ですよね。人としての「佇まい」がある。

 

来年への、唯一の願い

 

――最後には楽しまれたからこそ、伝えたいことがある。

成瀬 ええ。お願いだから、来年からは漫才をやっている4分間は、漫才だけを映してほしい。

 

――ワイプも、審査員の顔も、その瞬間はいらない。

 

成瀬 そうです。感想やリアクションは、終わった後でたっぷりやればいい。その4分間だけは、漫才師の人生と覚悟を、そのまま、不純物なしで届けてほしい。僕が見たいのは、彼らが舞台の上で戦っている、その「純粋な実況中継」なんです