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鮮やかな『Update』の地平の先に、J-POPの未来が僕には見えた
成瀬英樹
成瀬英樹
9月22日 18:31

昨日、山崎あおいさんの札幌LIVEを観てきました。

 

「一人でステージに立つ」となると、「元祖ギタ女」なあおいさんなら全編弾き語りを想像してしまいますが、そうではなく「トラックを流しながらギターを置いて歌う」「トラックを流しながらギターも弾いて歌う」「弾き語り」の3パターンをそれぞれ同じくらいの配分でやられていました。中でも最新アルバム『Update』からの曲が実に刺激的で、生で体験する歌の世界とトラックの音響の素晴らしさに圧倒されました。

 

Newアルバム『Update』のタイトルそのままに、最新型にして、完全型の山崎あおいのスタートとなる時期に、彼女の地元である札幌でのライブを体験出来たのは、一あおいファンとして非常にラッキーでした。

 

あおいさんのデビューは2012年。ってことはもう14年になるのですね。

 

今回『Update』と同時リリースされた初期作品のセルフカバー集『Unplugged days』に収められている初期名曲たちをあらためて今の彼女が歌うのを聴くと、山崎あおいがいかにメロディメイカーとして突出しているかがよくわかります。オーソドックスなコード進行に、実に素直で美しいメロディが乗せられていて、きっとピアノの鍵盤でメロディをたたいただけでも、自然にハーモニーが聴こえてくる、それって実に「音楽的」ってことだと思うんです。

 

初期作品の歌詞に関しても、後年、あらゆる変化球をも駆使してヒットチャートを駆け抜ける「作詞家」になる、彼女のそんな片鱗をあちこちに見ることも現在の視点から聴くと可能ではありますが、後進の音楽家のみなさんに注目してほしいポイントは、彼女は初期の段階で、あらゆるパターンの「歌詞」にチャレンジし、すでにオーソドックスなものを書く力を完全に身につけていたということ。

 

ありていに言ってしまうと「基本」をしっかりと身につけていたんです。

 

『Update』では、トラックメーカーとのコライト楽曲が増え、彼女は「トップライナー」としてソングライティングに参加する楽曲が多くなっています。コライトとは「ギターを弾きながらメロディを探し、そこに歌詞をつけていく」これまでの作曲法と違い、「トラックメーカーからもらったトラックにメロと歌詞をつける」という手法が主。すでに現代のポップスのオーソドックスな手法となっています。(成瀬の新作『動く唇』もトラックを先にいただき、そこにメロと仮歌詞を乗せて完成させました)

 

例えばこの『Yellow number』。メロも歌詞も、トラックの流れに沿ってトラックの中にすでに潜んでいる「メロディと言葉」を、彼女は注意深く、傷をつけないように掘り出して、僕たちに聴かせてくれます。スチャダラパーの名言に「オレって何にも言ってねえ」ってのがありますが、まさにそれ。あおいさんは「何にもやっていない」くらいに「さりげない言葉とメロディ」で、空前絶後のキャッチーさを表現するのです。これは、ポップスという音楽を愛し抜き、その本質が一体何なのかを考え抜いた人にしか出来ないことなんです。

 

(アマチュアの作家は「オレの手で何かしてやろう」と考えてしまう人が多いのです。「何でもない」ように見えるほどさりげない言葉やメロディがポップスの本質であることが理解できさえすれば壁は越えられると思うのですが)

 

初期の楽曲でソングライティングの基本を身につけ、作詞作曲家としても数々の作品をヒットチャートに送り込むキャリアの中で、彼女がたどり着いた『Update』という地平は、そのまま、平成から令和への「J-POP」の変化を見せてくれる大傑作なのです。嘘だと思うなら、まずこの『Yellow』から聴いて、アルバム『Update』も聴いてみて下さい。きっとあなたになら、僕が言うことにご賛同いただけると思うんだ。

 

僕は今年56になります。同世代の音楽家たちに、共にヒットを作りこの時代に通用するポップスを作るべく切磋琢磨する仲間がいなくなってしまった。これは本当に寂しいことなんです。我々の世代が体験してきた音楽の文化と現代のそれは決定的に変わってしまったように感じることに異論はありません。確かに僕も日々「Update」するために必死であります。

 

やっぱね、今の時代のヒットを狙わないと僕は「おもんない」ねん。ポップスのクリエーターの端くれとして、僕は常々そう思っています。

 

終演後の慌ただしい楽屋で、あおいさんは実に「あおいさん的」な笑顔で「成瀬さん、来ていただきありがとうございました」と迎えてくれました。「またぜひ、作曲でご一緒したいです」とも言ってもらえて。ありがたいことです、これほどまでにアップトゥデイトな音楽家にまた一緒にやりましょうって声をかけてもらえるなんて。そう、僕の中ではいつも「山崎あおい」はファーストコールです。実は今年もいくつかの作品でご一緒させていただいています。これからもまた、一緒に作曲が出来ることを楽しみみしたいと思います。

 

 

突きつめて考えるなら、「我々の世代が体験してきた音楽の文化と現代のそれ」は何ら変わらない、一本の道でつながっているんです。昨日のライブを終え、札幌の街を歩きながら、僕はそんなことを考えていました。山崎あおいさんが2時間歌ったShowを観て、僕の胸は希望と確信があふれ出して来たんです。結局、何にも変わってないやんか、って。僕が信じた「ポップス」はしっかりと彼女の中にあって、これからも生き続けることに。

 

あと、「歌」ね。歌い方、試行錯誤の中でついに見つけた彼女だけのオリジナルなヴォイスに、僕は心から感動し、何度か涙をぬぐってしまった。こと「歌」に関しては、彼女は信念の人だし、努力、根性の人。一回だけ語彙力を放棄して言わせてもらうなら、「あおい、マジすごい」。