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年末感のない年末
成瀬英樹
成瀬英樹
12月26日 14:30

おはようございます!!

 

「A1グランプリ」の締切が本日でした。たくさんのエントリーに、心から感謝いたします。僕自身も審査員という立場ではありますが、音源を事前に確認することなく、そのまま予選会に臨みます。ぶっつけのほうが、やっぱりおもしろいですものね。

 

基本的には、すべての楽曲を生配信で聴きながら、ブラッシュアップのご提案をさせていただいたり、感想をお伝えしつつ、最終審査に残る「10組ほど」を決定していきます。審査の基準はとてもシンプルで、「一緒に仕事をしてみたい人」。決勝では「お題」に向けたコンペになりますからね。

 

明日12月27日(土)20時から、生配信を予定しております。A1グランプリの最初の「音」が鳴る瞬間です。ぜひ、お楽しみに。

 

昨日もそんなわけで、ゆっくり過ごさせていただきました。今、ゼミ生のみんなの顔を見てしまうと、何か別の感情が生まれてしまう(A1、がんばってますか? 大丈夫ですか? ってね)ので、A1期間中は、少し距離を置かせてもらっています。

 

ご応募数は19曲。いやあ、実にちょうどいい。これ以上多かったら、「全曲予選生配信」というコンテンツ自体が成立しなかったかもしれないし、生配信まであえて試聴しなくても、粗製濫造を心配する必要はないと感じています。あくまで直感ですが、今回はその直感を信じています。

 

ここから、そうですね、半分くらいの方に絞らせていただくことになると思います。それも実際に音を聴いてから、審査員のみなさんと相談しつつ、丁寧に進めていきます。

 

いつものカフェで、これを書いています。暖かい店内。外では、激しめの雪が降り出しました。娘に「来月そっち行くよ」とLINEしたら喜んでくれて、こっちまで嬉しくなります。小沢健二さんの『悪女』は最高です。

年末感のない年末です。

2000年の歌声とAIトラックの融合。『神戸珈琲物語』とビートルズと滑らない靴
成瀬英樹
成瀬英樹
12月25日 12:52

おはようございます!
 

昨日のクリスマスイブ、みなさんいかがお過ごしでしたか。僕は静かに音楽を聴いて過ごしましたよ。スタン・ゲッツとか、ソニー・ロリンズとか、それこそビル・エヴァンスとか、そんなものを聴いていたかと思えば、いきなりビートルズの最新ミックス『赤盤』をじっくり聴き込んだり、『アビー・ロード』に舌鼓を打ったりね。新しいミックスの『アビー・ロード』も、久しぶりに聴くと、なかなかいいですね。
 

それもこれも新しいイヤフォンに感覚を馴染ませるためです。古いレコードの音もこのイヤフォンで聴くと新しい発見があるんだよね。
 

さて、昨日今日あたりの僕の街は、積もった雪が一旦氷化して、スケートリンクを歩いてる状態にならざるを得ない局面もちょいちょい出てきてます。そんな時、僕の新しい「滑らないアシックス」の登場だ。
 

僕の「アシックス」には底面に秘密があって、それがどんな秘密だったか言語化できるくらいには覚えていないんだけど、アシックスの店員さんによると「ガラス的な何かが底面の秘密であり、それらはほとんどの場合、氷上でも滑ることはない」という意味の総体を僕に伝え残してくれた。彼女が言うように、今年僕はまだ一度しか転んでいない。
 

さて、昨日公開になった僕たちFOUR TRIPSのニューリリース、楽しんでもらえましたか? まだの方はぜひ。クリスマス限定で公開して、明日からは「限定公開」にする予定です。引き続き聴きたい方はリンクをブックマークしておいてくださいね。



 

この『神戸珈琲物語』は2000年のあの悪名高き「沖縄修行時代」に書いた曲です。aiちゃんのメロディに僕が歌詞をつけた。当時作ったデモはロン・セクスミスの曲のブレイクビーツを使ったシンプルなものだった。そのデモから抜き出したボーカルと、Suno AIで生成したソウルっぽいトラックを初田くんにミックスしてもらったのだ。とても気に入っています。
 

それにしてもですよ。この「編み物をする老婆の向こうで、暖炉の炎が揺れている」動画は、ゼロから作って数十分で完成しました。AIのサブスクに課金はしましたが、ほとんどタダみたいなものです。それに、「なるほどこれはこうやって使えば長い動画にすることもできるな」という気づきももらえましたよ。
 

だってさ、半年ほど前にリリースしたこの動画、図案は僕が生成したものだけど、この「目を動かす」だけで数万円必要だったんだよ。これに数万払っていたんだ……わお。何時代やねん、って思うよね。
 

いよいよ明日、「A1グランプリ」の締め切りです。明後日27日の20時とかくらいから、予選生配信もやりますからね。どんな曲が集まるのか、とっても楽しみです。
 

そんなわけで、年末年始はありがたいことに色々と忙しくなりそうです。今日もゆっくり美味しいものでも食べて、図書館にでも行きます。

クソタレな気分蹴飛ばしたくて
成瀬英樹
成瀬英樹
12月24日 11:07

いいかい、これからは昨日の話をしようと思う。別に僕の生い立ちとか、デヴィッド・カッパーフィールドみたいな退屈な話をするつもりはないよ。ただ昨日、僕が何を感じたかって話だ。
 

朝、録画してた王貞治さんのドキュメンタリーを観たんだ。王さん、85歳だぜ。それなのに、まるで聖人みたいな優しい顔をして、子供たちに野球を教えてるんだ。それを見てるだけで、なんだか胸の奥がグッときちゃってさ。僕は巨人のファンとかそういうんじゃ全然ないけど、王さんだけはやっぱり別格なんだ。今の子供たちにとっての大谷翔平みたいなもんさ。正真正銘のヒーローなんだ。昭和43年生まれってのはそういうものさ。
 

番組の最後の方で、インタビュアーが「どうして王さんはそんなに野球が好きなんですか?」なんて、いかにもな質問をしたんだ。そしたら王さんは、なんと食い気味にこう言った。「それは難しいからだよ」ってね。 いいか、「楽しいから」じゃないんだぜ。「難しいから」夢中になるんだってさ。それを聞いた瞬間、なんだかわかんないけどさ、僕は救われたような気がしたんだ。
 

テクニクスの新しいイヤフォンを買った。AZ100っていう評判のやつだ。音を聴いて、僕はぶったまげたよ。なんてったって深みがあるんだ。今まで一体何を聴いていたんだろうってくらいだよ。でもね、そのせいで気づいちまった。僕の左耳の調子がまたちょっとおかしいってことに。
 

気休めにiPhoneアプリの聴力検査をやってみた。経験というのは恐ろしいもので、見事に予想通り、左耳の高い帯域の聞こえが良くない。 僕は昔からそうなんだ。強いストレスを感じると、すぐに耳にきちゃう。TRFやAAAの仕事が決まった時もそうだし、『君はメロディー』の時もそうだった。自分にとって最高に素敵で、デカいチャンスが来たときほど、僕の体はビビって耳を塞ごうとするんだ。皮肉な話だろ? 逆境の時はピンピンしてるくせに、順風満帆になるとこれだ。
 

ま、「だいたい聴こえてたらいいんだよ」くらいに、鷹揚に考えることにしたんだ。強引に四捨五入したらもう60歳だぜ、多少は聞こえも悪くなろうってもんだよな。それに耳ってのは、酷使しすぎるくらいに酷使してきたからね。 新しいイヤフォンのLから高音でタンバリンが聴こえると幸せな気持ちになる。エレピのナイスなオブリガートが聴こえてきたら、もう何もいらない。大丈夫。聴力検査なんて、気にする必要はないぜ。
 

だから昨日は、レッスンを全部キャンセルさせてもらった。それに、ゼミ生たちも一年の、いやここまでの作曲修行の発表&力だめしの場である「A1グランプリ」を控えてる。彼らに余計な手出しをしないという意味では、時期としてはちょうどよかった、とも言えるかもしれないな。
 

そう。ゼミ生だろうが、そうでなかろうが、Sunoという同じツールを使っての勝負「A1グランプリ」。ゼミ生以外のメンバーからも楽曲が届いてる。もちろんBINGO以外の方からもな。「いい曲かどうか」、それが全ての審査対象だ。 石崎”バッハ”光、白井”アヴァンチュール”大輔、そして成瀬”君メロ”英樹というタイプの違う作曲家が、それらの曲にどのような感想を抱くのか。楽しみにしててくれよな。予選生配信は12月27日の夜にやる予定だからさ。
 

そんなわけで昨日の午後、僕はバスに40分揺られて、アウトレットまで行った。ずっと履きつぶしてるリーバイス501のポケットに穴が開いてたから、修理に出すためさ。 修理代は6,000円だった。数件先にリーバイスのショップがあったから覗いてみたら、新品のブラック501がセールで5,500円で売ってた。 修理するより新品を買うほうが安いんだぜ。笑っちまうよな。
 

でも、僕は結局6,000円払って、穴の開いたやつを直しつつ、新しい501も一本買ったんだ。どうしてかって? うまく言えないけど、たぶんそれが僕なりの「付き合い方」なんだろうと思う。あと、501をずっと履き続ける理由も、自分ではわからないんだ。
 

家に帰ったら、小沢健二さんの日比谷野音でのライブアルバムが届いていた。アナログオンリーで発売されたもので、いわゆる「卓から直」のライン音源。主にミュージシャンたちが演奏確認用の「同録」をそのまま出したものだ。 音のバランスも、もちろんミックスも修正できないから、これはものすごく「生」な音源なんだよ。そういえば、あの名作『ジョアン・ジルベルト/ライブ・イン・トーキョー』も「同録」をそのままリリースしたものだったな。
 

そうなんだ、僕にとって小沢さんは「今、ここにあってほしい音楽」を聴かせてくれる人なんだ。この人のメッセージを受け取ることができる世界が当たり前のものじゃないって僕たちは知っているから、余計に感じ入ってしまうんだよ。この凸凹した美しい一瞬の演奏に。小沢さんの最高傑作だよ、まったく。これをアナログオンリーで出すってのが、それこそが、小沢健二なんだって思うよ。
 

知ってるかい? 小沢健二さんと僕は同じ年に生まれたんだ。だからどうって話じゃないんだ。ただそれだけさ。いや、きっと彼も、王さんのホームランに胸ときめかせた子供だったんじゃないかなって考えたら、ちょっとだけ嬉しいじゃないか。

「あの4分間は、聖域であるべきだ」
成瀬英樹
成瀬英樹
12月22日 8:57

「あの4分間は、聖域であるべきだ」――吉本時代に見た“芸人の生存本能”と、M-1への切実な願い

 

――昨日のM-1グランプリ。成瀬さんは2001年の第1回から欠かさず見てこられたそうですが、今回初めて「途中離脱」をされたと。

 

成瀬 そうなんです。20年以上、一度も目を離したことはなかった。でも、今回はどうしても耐えられなくなって、初めてテレビを消しました。つまらなかったわけじゃないんです。むしろ「面白いのに、集中できない」という、作り手側としては一番厄介な理由かもしれません。

 

――その原因は、カメラワークにあるとお聞きしました。

 

成瀬 ええ。漫才の最中に、審査員のリアクションへカメラが切り替わる。あれが本当にストレスで。僕たちは漫才師が作り出すテンポに身を委ねて、言葉を追い、間を味わっている。その最高潮の瞬間に突然カメラがパンして、審査員の笑顔が映る。画面が戻った時には、もう「一番大事な瞬間」が終わって、客席がドカッと沸いているんです。

 

吉本興業で目撃した、中川家たちの「サバイバル」

 

――成瀬さんはかつて、ご自身のバンド「FOUR TRIPS」で吉本興業に所属されていましたよね。

 

成瀬 そう、実は僕ら、吉本にいたんですよ。言わば、第1回王者の中川家さんたちとは同期なんです。あの頃、お笑いの人たちがどれほどシビアな世界で、文字通り「命を削って」生き残ろうとしているか。そのサバイバルを間近で見ることができました。

 

――その経験が、今の成瀬さんの根底にあると。

 

成瀬 間違いありません。僕の今の競争原理、あるいは表現者としての根幹は、あの時見た芸人たちの執念にあるんです。彼らにとっての4分間は、単なるネタ披露じゃない。人生をひっくり返すための、剥き出しの真剣勝負です。だからこそ、そこに「ほら、審査員も笑っていますよ」なんていう余計な“解説カット”はいらないんです。

 

「お墨付き」の演出は、M-1の精神に反する

 

――作り手としては、「みんな笑っていますよ」という安心感を届けたいのかもしれません。

 

成瀬 でも、それはM-1の精神から外れていると思う。漫才師が4分間、自分たちの表現だけで勝負する場所なんですから。記録として残る映像なのに、彼らが考え抜いた最重要のアクションが、審査員のカットで永遠に失われてしまう。これほど残酷なことはありません。

 

――結局、一度離脱したあとに戻られたのは、やはり気になったからですか。

 

成瀬 1時間くらいして、やっぱり寂しくなっちゃってね(笑) 戻った後のM-1はしっかり盛り上がっていたし、最後の3組は本当に面白かった。優勝したコンビも、技術云々の前に、立っているだけで面白いし、好感が持てる。あれは一種の才能ですよね。人としての「佇まい」がある。

 

来年への、唯一の願い

 

――最後には楽しまれたからこそ、伝えたいことがある。

成瀬 ええ。お願いだから、来年からは漫才をやっている4分間は、漫才だけを映してほしい。

 

――ワイプも、審査員の顔も、その瞬間はいらない。

 

成瀬 そうです。感想やリアクションは、終わった後でたっぷりやればいい。その4分間だけは、漫才師の人生と覚悟を、そのまま、不純物なしで届けてほしい。僕が見たいのは、彼らが舞台の上で戦っている、その「純粋な実況中継」なんです

「ストーンズの音がした」――人生を変えた1957年製ギブソンJ-50との邂逅
成瀬英樹
成瀬英樹
12月19日 12:37

「ストーンズの音がした」――人生を変えた1957年製ギブソンJ-50との邂逅

 

――成瀬さんはこれまでも、愛用のJ-50について何度か語られていますね。元々は2000年の春、山中湖でのレコーディングがきっかけだったとか。
 

成瀬 そうなんです。あれ、けっこう不思議な体験だったんだよね。あとで思い返すと運命的というか。僕がやってたフォートリップスというバンドのセカンド・アルバム『EGGS』を録っている時で、場所は山中湖のスタジオでした。合宿形式でね。ギターテックの人が何本か楽器を持ち込んできたんです。 

 

――そこで出会ったのが、ギブソンのJ-50だったわけですね。
 

成瀬 ええ。それまで僕はアコギは国産のタカミネなんかを使っていて、それはそれできちんとした楽器なんだけど、そのJ-50を弾いた瞬間に「あ、これは全然違うな」って直感したんです。なんていうか、音がね、ストーンズの音がしたんですよ。ローコードのEを一発鳴らしただけで、その場の空気が変わるような、そういう説得力があった。レコーディングの間じゅう、僕はギターを部屋に持ち込んで、暇さえあれば弾いていました。だから返す時、すごく名残惜しくなっちゃって。
 

――それで、神戸に戻ってすぐに同じモデルを探し始めた。
 

成瀬 でも、なかなか見つからないんです。ヴィンテージだから、ネックが反っていたり、トップが割れていたり、満身創痍みたいなのが多くて。そんな時に、神戸駅の近くにある「ヒロ・コーポレーション」に行き当たったんです。ギターショップといっても、ギターなんか一本も飾ってなくて、あるのは大きなソファだけ。「ここは弁護士事務所か何かか?」って思うくらい静かな場所でね。店主のヒロさんも独特な人で、「どんなJ-50が欲しいんや」って聞くから、僕は「ピッチがいいやつ、ありますか」なんてビビって答えちゃって。
 

――ピッチがいいヴィンテージというのは、なかなかないですよね。
 

成瀬 そう。でもヒロさんは「ほう」と言って顔色ひとつ変えずに奥へ入っていって、ひとつのハードケースを持って戻ってきた。1957年製でした。音叉をカーンと叩いて、はいってギターを渡されて。マジかよ、チューナーなしかよって(笑)チューニングをじっくりして、僕がEのローコードをジャラーンと鳴らした時、「これしかない」ってなりました。衝撃でしたよ。なんかもう、迷いとかなんとか、すべて吹っ飛ばす音だった。
 

――75万円、とお聞きしました。当時の成瀬さんにしても大きな出費だったのでは。
 

成瀬 僕にしちゃ車が買える値段だもの(笑)即決はできませんでした。レコード会社を首になって31歳、地元に帰ってきてさあこれからどうやって食っていこうって時期。生活はマジで楽じゃなかったし。それで一度持ち帰ったんですが、その数日後に東京へ行って、ドームで巨人対阪神戦を観たんですよ。2000年の4月20日。当時の妻で音楽的相方aiちゃんと、友人のコユキちゃんと三人で。
 

――野球の話になるんですね(笑) 相手は巨人ですよね。当時の打線は凄まじかった記憶があります。
 

成瀬 いわゆる「ミレニアム打線」ですね。高橋由伸がいて、松井秀喜がいて、清原に江藤でしょう。しかも先発は工藤公康でした。対する阪神の先発は、プロ2年目の福原忍。僕はそこで、半分冗談みたいに言ったんです。「もし福原が、万が一よ、この試合を完封したら、あのギブソンを買っていい?」って。aiちゃんは隣で笑ってましたよ。現実的にはあり得ない話だったから。「ええよ」って。
 

――データを確認したんですが、福原投手は18年間の現役生活で、完封勝利を3回しか記録していないんですね。
 

成瀬 そうなんです。長いキャリアの中でたった3回。そして、その最初の一回が、まさにその夜だったんです。矢野が工藤からホームランを打った記憶があるなあ。福原もあの強力打線を相手に、9回を投げきって点を与えなかった。音楽の神様っているんだって思ったよね。もう飛び上がって喜んだと同時に、どうやってローンを組もう? って考えてましたよ(笑)
 

――奇跡的な確率ですね。
 

成瀬 本当にね。だからもう、買うしかなかった。音楽で生きていくなら、これに賭けようって。このギターが僕の人生を変えたんです。これには後日談があって、数年前に再結成した時にこの話をしたら、aiちゃんに叱られました。「あんたはすぐそうやって美談にするけど、こっちは大変だったんだよ」って(笑)彼女は正しい。75万円なんて大金を、見通しも立たない時期に使うなんて、僕はまったく正気の沙汰じゃない。だから「別にそのギターじゃなくてもよかったじゃない」と言われると、ぐうの音も出ないんだけどね。
 

――それでも、成瀬さんはそのギターを選んだ。
 

成瀬 ええ、結果的にはね。aiちゃんには申し訳ないけれど、あの時あのギターを買っていなかったら、僕はここまで本気で練習しなかったと思う。最初はこのギターのポテンシャルに負けてた。でも、とにかく必死で練習しました。ジェームス・テイラーをコピーして、専門誌を読み漁って。お金はないけど時間だけはあったから、それを全部ギターに注ぎ込んだんです。毎日、いろんな音楽を指板の上で研究できた。その後作曲家を目指した時も、いつだって曲を書くのはこのギターだったからね。
 

――あれから25年、今でもその1957年製を使われているんですね。
 

成瀬 ええ、いまでもメインです。さすがにもう旅に出ることはなくなりましたが、自宅で大切に弾いてます。このギターを持って、何も考えずにEのコードを鳴らす。そうすると、その日の自分の調子が全部わかるんです。声の出方とか、指の感覚とか、そういうのが鏡みたいに返ってくる。 僕の自慢は、日本を代表するJ-50プレイヤーである、吉川忠英さんと中野督夫さんからそれぞれ、「成瀬のJ-50の方が音がいい」って言っていただけたこと。お二人のギターと弾き比べさせてもらえたこと、ほんとに嬉しかったな。  

僕の曲はすべて、その一本のギターと、そのEのローコードから始まっているんです。それ以外のことは、うまく説明できないな。