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エスコンフィールドから、混雑なくバスに乗って帰る方法を何度か書いたことがあるが、土日のデイゲーム終了時は、僕はいつも、混み合う新札幌行きではなく、土日だけ運行されている「野幌行き」に乗る。
野幌行きは、新札幌や北広島行きに比べると、バスは比較的空いている。昨日も試合終了後、20分も並ばなかったと思う。そして僕のもう一つの楽しみは、野幌駅の駅前にある『街の灯台 喫茶ファロ』に寄ることである。
ここはアナログレコードでジャズがかかっていたり、サイフォンで美味しい珈琲を淹れてくれる名店なのだが、ファイターズを含む「野球文化」への深い愛情を感じることも特筆したい。狂信的な「〇〇ファン」ではなく、野球文化そのものを丸ごと愛するご夫婦(もちろんファイターズファンでもある)が経営するこのお店は、近頃では僕の憩いの場所。土日のデイゲームが終わった後は、野幌駅行きのバスに乗って、『喫茶ファロ』に寄り、静かなジャズを聴きながらケーキセットを食べ、美味しいコーヒーを飲むのが僕の「小確幸」である。
『喫茶ファロ』には趣味の良い素敵な本もたくさん置いてあり、その中に野球関係のものも結構ある。昨日、店内で読んだのが『野球の言葉』という雑誌(ムック)。ちょうど僕が先日読み終えたばかりのポール・オースター『4 3 2 1』の訳者である柴田元幸さんが、小説と野球についてインタビューを受けていて、これが面白かった。『4 3 2 1』でもジャッキー・ロビンソンの逸話や、ドジャースの西部移転(ドジャースはかつてニューヨークのブルックリンにあったのだ)などのエピソードが、重要なストーリーのスタンプとして機能している。そういえば、ポール・オースターが脚本を書いた映画『スモーク』の主人公の小説家も、仕事の合間にしょっちゅうメッツの試合を観ている。ニューヨークでは、生活の中に自然と「野球」がとけこんでいるのだ。
この『野球の言葉』の中で、野球の名著として数名が紹介していたのが『男たちの大リーグ』というノンフィクション(デヴィッド・ハルバースタム著/常盤新平訳)だ。原題は『Summer of ’49』という。僕は「Summer of」のあとに年号をつけるタイトルを見るだけで心が騒ぐ。なんと言ってもブライアン・アダムスの『Summer of ’69』を思い出すし、自分でも『Summer of ’88』『Summer of ’96』という2曲を作ったほどである。
この本、僕も15年くらい前に読んだことがあるけれど、本当におもしろくて、夢中で読んだ。タイトル通り1949年のヤンキースとレッドソックスのデッドヒートを中心に描かれたノンフィクションだ。誰一人、動いているシーンを見たことのない伝説の選手たちが、名文によって頭の中で生き生きとプレーを始めるのだ。
野球と文学はとても相性がいい。この『男たちの大リーグ』はノンフィクションだが、日本にも村上龍『走れ!タカハシ』や小川洋子『博士の愛した数式』など、野球を真ん中に置いた名作がある。
さて、昨日の試合は、ファイターズ・金村が6回無失点、ライオンズ・隅田は8回を無失点と、前日に続き投手戦となったが、結局ファイターズはブルペンの池田、柳川が8、9回に1点ずつ失点し、最終回の追い上げも届かず、2-1の敗戦となった。打つべき手はすべて打ったし、連戦でブルペンに疲れが見えるのは仕方がないところ。隅田の投球が素晴らしかったことを讃えたい。それでも最終回、難攻不落の鉄腕・平良から1点をもぎ取り、あと一歩のところまで追い詰めたファイターズ。大丈夫、しっかり強いから。
締め切りまで少し時間がある作曲の仕事を、毎日少しずつ進めている。
今回は、僕を含めた三人でのコライト(共作)。先手の「トラックメーカー」がトラックを制作し、次に僕が「トップライン」(歌詞とメロディー)を乗せ(←イマココ)、最後にプロデューサー的な三人目が全体をまとめるという流れ。
一人で最後まで作るのとは違って、新しい視点を得られるのも利点だけれど、なんといっても、それぞれの得意分野を活かせるのがこのスタイルのいいところ。それぞれが自分の持ち場で、職人的に仕事をまっとうすればいい。だから僕はコライトでの作業がとても気に入っている。
「トップラインとは何か?」と思われるかもしれませんね。トップラインとは「歌詞とメロディー」のこと。平成までの「作曲」の概念では、トップラインを作ることがそのまま「作曲」と呼ばれていたけれど、今はもう違う。音を作る人(トラックメーカーやプロデューサー)も作曲クレジットに含めることが、当たり前になってきている。だから最近のヒット曲のクレジットには、たくさんの名前が並んでいることが多いのです。時代は変わる。どれだけ「変わらない普遍性」が大切だとしても、時代の流れには逆らえない部分がある。これからの「作曲家」にとって、「コライト」は必須になっていくと思う。
「シーズンシートですか?」
エスコンフィールドで試合がある日は、なるべく早めにライトスタンドのいつもの指定席に腰を下ろし、ビジターチームの打撃練習やファイターズのシートノックを眺めることにしている。そんなゆるやかな時間に、昨日は隣に座っていたご夫婦の男性が話しかけてきた。
「はい」と僕が答えると、「私たちも毎日ここに通っていて、いろんな席で観てるんですよ。ここの席にも今年あと何度か来ます。よろしくお願いしますね」と、にこやかに言ってくれた。
昨日は来場者全員にファイターズのユニフォームが配られていて、観客のほとんどがそれを着ていた。僕も着た。ブルーとブラックに染まったスタンドを見渡すと、まるで球場全体が、脈打つ巨大なひとつの生き物のようにうねっていた。
西武ライオンズの悲運のエース・今井達也、ファイターズは山崎福也。空前の投手戦。6回を終えて、両チームともノーヒット。結局、ふたりはともに8回を無失点で投げきったナイスピッチング。
ここからがファイターズのブルペンの見せ場だった。田中正義は伸びのあるストレートで、池田隆英はテンポよく、河野竜生は緩急を活かして、杉浦稔大は気迫で、それぞれの持ち場で職人たちは見事に期待に応えた。延長12回をゼロでつないだファイターズ投手陣、素晴らしかった。
そして延長12回裏。2アウト、ランナーなしで万波が四球で歩く。松本剛が代走。
そして場内にアナウンスが響いた。「代打、郡司」。打つべき手は打った。あとはそれぞれが、仕事をまっとうするだけだ。
アウトになれば試合終了という場面で、松本は見事に盗塁を決めた。そして郡司は、ツーストライクに追い込まれたあとの決めにいったフォークボールを、ライトへ――技ありのホームラン。打球は僕たちが待つライトスタンドへ向かって飛んできた。サヨナラホームラン。
誰もが立ち上がって、郡司の名前を呼んだ。名前を呼ぶことでしか表現できない感情がある。「郡司!」僕も叫んだ。前の席で一人でクールに観戦していた男性と僕はハイタッチした。隣のご夫婦とも硬く握手を交わした。
年に何度も見られないような試合を、何度も見せてくれたのが昨年のファイターズだった。今年も始まった、ついに、ちゃんと、始まった。
延長12回、郡司のサヨナラホームランで身体も心もほてって眠れそうにないので、静かに作曲配信、します!
お疲れ様です!
今日の投稿はクリエーターズのみなさん限定になります。
いつも成瀬を応援してくれて本当にありがとうございます!
今年も『BINGO! AID』の季節がやってまいりました。この一年の『BINGO!』のみなさんの作品のショーケースとして、そしてささやかながらの社会貢献への試みとして、今年も企画させていただきます。
この一年でクリエーターズのみなさんと共作を進めてまいりました。もしみなさんの中で、「成瀬との共作の意思がおありの上」で「まだかなっていない方」がおられましたら、ぜひとも私と共作いたしましょう。
歌詞を書いていただいてもいいですし、メロディを僕がアレンジするのでも、僕がトップラインを書くのでも構いません。タイトルとイメージをお伝えいただくだけでも、オッケーです。
つきましては、ご参加の意思を4月15日までにお伝えいただけたら幸いです。「成瀬が忙しそうだから…」なんて遠慮はご無用です。逆に僕の方でも、4月15日の時点でのお申し出にて、一旦発売日のメドを立てさせていただきますね。こちらからどうぞ!
ぜひ、奮ってのご参加、お待ち申し上げております。
ここから一週間ほど、『BINGO! AID』制作に全振りしてまいります。生配信も(出張などもあり)不定期にはなるかもですが、ご視聴いただけたらとても嬉しいです。