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適材適所〜僕のファイターズ大航海日誌 #24
成瀬英樹
成瀬英樹
5月28日 11:23

久しぶりに業界随一のやり手、Kiyoshi Sunrise と電話で話した。相変わらず爽やかで、話が早い男。あたしがやってる「作曲ラボ」を卒業する作家を引き受けてくれないかって、頼んでみたんだ。
 

もちろんその作家は、あたしらが一から育ててきた子。最初に届いたデモを聴いて、あたしすぐ電話かけて言ったのよ。――このままじゃ全然ダメだよ、って。打ち込みはまあまあできてるし、一応曲の体裁はある。でもさ、「ポップス」としての土台が弱いの。たぶん、この状態でもコンペには出せるかもしれないけど、採用はまず無理――そう言ったの。
 

彼、それまで何件も事務所にデモを送ってたらしいんだけど、どこからも返事がなかったんだって。それでも「厳しく指摘してもらえるのはありがたいです。ぜひユウキさんのもとで学びたいです」って言ってくれてさ。
 

そこから彼はね、非凡なセンスを見せてきて、しかも謙虚に学びながら、コツコツ楽曲コンペに挑戦し続けたの。で、ある日とうとう初めてのキープが採用になった。メジャーアイドルのシングルのカップリング曲。いやもう、すごくない?
 

この世界、やっぱ実績がすべてなんだよね。たった一曲って思うかもだけどね、「イチ」と「ゼロ」にはとんでもない差があるの。その「イチ」を彼は掴んだ。だからウチで続けてほしい気持ちもあるんだけど、彼の将来を考えるとやっぱりKiyoshiの事務所がぴったりだと思ったわけ。
 

「もちろん作家は募集してるけど、ユウキさんはいいんですか? せっかくそこまで育てたのに」
「いいんだよ。案件はKiyoshiのほうが多いし、ウチは王道ポップスや歌謡曲が中心。彼はもっとアイドルに曲を書きたいみたいだし」
「ユウキさん、相変わらず商売っ気ないっスね。ウチとしては助かりますけど」
 

「で、札幌はどうですか?」
「楽しいよ。毎日野球観てる。こっち来るときは連絡して、案内するから」
「行きたいっスね。北海道なんて10年以上行ってないなあ」
「逆にあたしがそっち行ったら連絡するわ。こないだ北山くんとやったセルフカバーのライブ、またやんなよ」
「あんときは来てくれてありがとうございました」
「Kiyoshi、歌よかったよ。作曲家や社長の前に、やっぱあんたは歌手だと思った」
「恥ずいっスよ。もう歌は遊びっス。でもまた歌ってみたんで、YouTube観てくださいね」
 

「ところで」とKiyoshiが言う。「ユウキさん、いくつになったんですか?」
「57……あ、まだ56だ」
「そっか、ちょうどオレの10こ上ですね。オレらももうずいぶんベテランになっちゃいましたね」

 

負けは仕方ない。でもホークスにやられるのはやっぱり癪なのよ。特に今夜は大好きな池ちゃんが延長十一回に一発を浴びて負けたから、気が収まらなくて七つ星横丁のカウンターでビールあおってた。そしたらさ、案の定、あいつがいたのよ。顔まっかっか。
 

「よう、満里奈似」
「お、今日はどこで観てたの?」
「応援団してたよ。延長は疲れるな」
「新庄さん、ほんと肝が座ってるよね」
「ああ、新人右腕のイーレイな? プロ入り初登板が同点の9回なんて、ベテランでもちびる場面でさ」
「ハタチなんだって? いずれメジャーを夢見てるらしいね」
「今日も初登板の顔じゃなかった。『なんぼのもんじゃい』ってホークス打線を見下ろしてたよな」

「あのさ」
「何?」
「ずっと満里奈似って呼ぶのも変だろ? あんたの名前、教えてよ」
 

名前ね……。ペンネームならいくつかあるのよ。ほんとはそんなのつけたくなかったけど。苗字も変わったり戻ったりしたし。ほんとは戻りたくなんてなかったけど。
 

あたし、ふざけて「名前? あだ名ならあるわ」って歌ってやったの。そしたら彼、笑って「古いね」って言った。目の前のこの男の名前すら、あたしは知らない。でも、それでいい。この男の前では、あたしの名前は満里奈似でいいのよ。

Catcher in the Field〜僕のファイターズ大航海日誌 #23
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
5月24日 12:46

「おう、満里奈似、古今東西ゲームやろうぜ」

「何よ、いきなり」

「ほら、いいから。いくぜ、『ここんとーざい! 元々キャッチャー出身の野手!』ハイハイ!」

「始まっちゃうのね。じゃあ、えっと……飯田哲也」

「お、日本シリーズ伝説のバックホーム! ヤクルトの名外野手きたね。オレ、同い年だよ。ハイハイ!」

「えらくノリがいいわね」

「こんな最高な夜におとなしくしてられるかってんだよ。郡司裕也! ハイハイ!」

「なに、それが言いたかったのね? でもそうね、今夜のサヨナラヒット、最高だったもんね」

「よく考えてみろよ。『不動の4番』が故障でいないんだぜ? リーグトップ級のOPSを誇ってた野村がよ」

「そうよね、野村が抜けても郡司がいた」

「遜色ないよな。郡司は去年、三塁手としてオールスターに出て、規定打席だって乗ってたのによ、今季はなかなか試合に出られねえんだから、ファイターズの戦力の厚さはマジでヤバい」

「ま、郡司は“元”じゃなくて、今年はしっかりキャッチャーもやってるからね」

「そうだよな。野村が抜けたファーストにもすんなり入れるし」

「今のファイターズってさ、“キャッチャー登録のユーティリティ”がたくさんいるのよね」

「そうそう。田宮だってレフトを結構器用にこなすしな」

「田宮は足だって速いんだから! あたし、真剣に野手コンバート考えてもいいって思う」

「ま、でもあの盗塁阻止率の高さも捨てがたいからな」

「そうなのよね。打てるキャッチャーって貴重だから、しっかり育てたいものね! ハイハイ!」

「いてまえ打線、最後の戦士、礒部公一!」

「また渋いとこ来たわね」

「礒部の外野へのコンバートがなければ、2001年の近鉄の優勝はなかったんだよ。まさに不動の5番だった」

「礒部って、あたしたちの世代には、“球界再編”のゴタゴタで古田さんと一緒にがんばってた人って印象あるわ。ハイハイ!」

「和田ベンちゃん!」

「あ、確かに! ベンちゃんはライオンズ時代、ガチでキャッチャーだったものね。外野にコンバートされてから、信じられないくらい打ち出したのよね」

「30過ぎてドラゴンズにFA移籍してからは、もう乱れ打ちだよな。2000本も達成したし、不屈の人だよ。ハイハイ!」

「衣笠祥雄!」

「鉄人衣笠! レジェンド中のレジェンドじゃねえかよ。満里奈似世代だとリアルで見たことないだろ?」

「ないわよ。本当に伝説の中の人。彼もキャッチャーだったのよね?」

「そうだけど、プロではほとんどマスクはかぶってないからなぁ。古今東西的にはアウトじゃね?」

「いいのよ、細かいことは言わないの。モテないわよ」

「衣笠さんがオッケーなら、オレは小笠原道大! だな」

「“ガッツ”ね、大好きよ! ファイターズのレジェンド!」

「日本球界における“攻撃的な2番バッター”の始祖だよな」

「巨人に行っても大活躍してさ」

「そうそう。ヒゲを剃ったとしても、あのワイルドな魅力は変わんなかったのがカッケーんだよな」

「あたし、去年『日韓対抗OB戦』をエスコンで観たんだけど、大学生の甥っ子と来たわけ。ガッツも出ててさ、甥っ子がガッツの打撃フォーム見て『本当にあんな打ち方するんだ、すげえ』って感動してたわよ」

「ああ、今の子たちは『プロスピ』とかゲームの中のレジェンドとしてのガッツってことなんだな」

「ガッツってさ、セ・パ両方でMVP獲ったのよ。ファイターズと巨人、両方で」

「もちろん知ってるよ。ほかにも両リーグMVPっていたか?」

「それが、もう一人いるのよ! じゃあ、次回会うときまでの宿題ね。あんたも野球ファンなら調べるのナシよ。しっかり思い出して考えてね」

「おお、わかった。でも一個ヒントくれよ〜、思い出すきっかけが欲しい」

「わかったわ。その選手、パ・リーグではファイターズ在籍時にMVP獲ってます。ではどう?」

「おお、ありがとな。考えとくわ。これ、読んでるそこのあんたも思い出してみてくれよ。調べるのはナシだからな!」

「誰に向かって喋ってんのよ、まったく……。じゃあ、あたし行くね。バスの最終がそろそろだから。ナイスゲーム、郡司に乾杯!」

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守備職人の涙〜僕のファイターズ大航海日誌 #31
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
5月22日 12:18

ねえ、レイ・オルドニェスって名前、聞いたことある? ニューヨーク・メッツ、伝説のショートストップよ。キューバ出身で、守備がアクロバティックっていうか、まるで舞うような感じ? あたしには吉井理人さんと一緒にメッツにいた頃の彼が、すごく印象に残ってんの。1998年だったかしら、日本から海を渡っていった吉井さんのピッチングを、何度も助けてたのよ。あの華麗なグラブさばき、忘れられないわよね。
 

それでね、そのオルドニェス、101試合連続無失策って記録をつくったのよ。信じられる? ショートって、一番難しいポジションを守って100試合以上ノーエラーよ。もう、レベチってやつよね。
 

でもさ、「エラーが少ない=守備がうまい」ってわけじゃないのよ、野球って。守備範囲が広い選手って、普通は届かない打球にまで手が届いちゃうからさ、どうしてもエラーに見えちゃうことがあるわけよ。で、動けない選手ってボールに触れないから、記録上はノーミスに見えるの。デレク・ジーターの晩年とか、まさにそのタイプだったわね。
 

つまり、オルドニェスって、守備範囲がめちゃくちゃ広いのにエラーが少ないっていう、本物の守備職人なの。
 

そんなオルドニェスね、2000年にメッツの一員として日本に来たのよ。カブスと東京ドームで開幕シリーズやった時。日本で初めてのメジャー公式戦、ってやつね。で、その2戦目、3月30日の試合でついに記録が途切れたの。マジで久しぶりにエラーしちゃったってわけ。なんでもない打球だったんだけどなあ。東京ドームのあのチープな人工芝の違和感のせいだったって、あたし思ったんだけどさ。 まあ、そういうのも含めて野球よね。
 

で、あたしが言いたいのはここからなの。いま、ファイターズに山縣秀っていうショートがいてね、めちゃくちゃ注目されてんのよ。早稲田からドラ5で入ってきた新人。触れ込みは「アクロバティックな守備」って感じだったけど、ほんとその通り。で、この前の試合、2つもすごい守備見せてくれたのよ。みんなどよめいてたわ。
 

“ガタシュウ”ってあだ名らしいんだけど、なんかね、プレイスタイルもあどけない顔も含めて、ファンの心つかんでるって感じなのよ。決してイケメンって感じじゃないんだけどね、なんかあるのよね。
 

今日もあたし外野席から見てたんだけど、「あっ、この感じ……」って思って。オルドニェスのこと思い出しちゃったのよ。ガタシュウ、これまでもいい守備は見せてたけど、あと一歩で決めきれない場面が多かったのよね。でもこの日は違った。バチッと決めてさ、忍者みたいでカッコよかったわ。バッティングでも1安打よ。
 

そうそう、思い出すわ、春の試合で送りバント失敗してベンチでめちゃくちゃ悔しがってたの。あの表情、グッときたなあ。試合にかける思いが伝わってきてさ、あたしだけじゃないわよね、胸打たれたの。
 

でもさ、ファイターズのショートには水野達稀がいる、もちろんね。チャンスに強いだけじゃなくて、三塁打の多さが特筆モノなのよ。知ってた? 去年なんて、楽天の辰巳に次いで2位の8本よ? しかも今季も、もうリーグトップタイの3本打ってるんだから。去年のファイターズ、春先は調子よかったのに、水野がケガで抜けた途端、一気に失速しちゃったの。あたし、そのとき思ったわ、「あ、水野って意外とチームの軸だったんだ、やっぱショートって大事なんだ」ってね。彼の存在感って、ほんとにチームを左右するくらい大きいってあたし思ってんの。
 

でもね、水野……今季はちょっとミスが目立つの。いま、エラーは清宮に次いでワースト2位。水野の場合は守備範囲の広さが原因って思えば、まあ責められないんだけどさ。でも実際、記録に残らないミス、なんていうか……ちょっと動きがもたついちゃう場面もあるのよ。本人は気なんて抜いてないんだと思うんだけどね。
 

ファイターズって、ここんとこ二遊間が安定しなくて課題だったじゃない? でも最近、セカンドは石井一成がヤバいくらい絶好調で頭ひとつ抜けてるし、ショートでは水野と山縣のバチバチな争いがいい感じでさ、いまチームにいい風が吹いてるって感じよ。
 

あたしはね、水野の勝負強さも好きだし、ガタシュウのあのオルドニェスばりの守備も推せるのよ。ショートって、やっぱ守備の華じゃない? だからこそ、ふたりで競い合ってどんどん良くなってほしいな。
 

そういえば、早稲田の監督の小宮山さんも、2002年にオルドニェスと一緒にメッツでプレイしてんのよね。教え子ガタシュウの守備に、かつての盟友オルドニェスの影を見たり! ……なんてね。何にしても、でっかく育ってほしいわね。
 

この日の試合? スコア的には5-2で負けたわよ。でも伊藤大海が完投してくれたんだから、それでいいのよ。ブルペン休めたし、次につながる“いい負け”ってやつ。だってエースって、そういうもんでしょ? 任せた試合で負けたなら、それはそれで納得なのよ。
 

ってわけで、今日も語っちゃったわね。オルドニェスとガタシュウの話、けっこう熱くなっちゃったかも。さてと…ちょっと1杯くらい飲んでく?

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新庄さんはバリー・ボンズの横を守っていたのよ〜僕のファイターズ大航海日誌 #30
成瀬英樹
成瀬英樹
5月17日 12:42

野球ってのは勝ったり負けたりなわけ。どんなに強いチームでも10回戦えば4回くらいは負けるんだよ。だからこそ、どうやって負けたかってすごく大事でさ。


あたしに言わせれば昨日の試合は、8回にセットアッパー(リレーでいうとアンカーの前の選手ね)の河野(コウノじゃなくてカワノって読むのよ、ちなみに数年前のドラフト1位の好漢)が出てくる展開を作れただけでオッケーなわけ。そこから先は単なる結果に過ぎない。プロセスの方が肝心なの。


だから河野がいきなり二人連続でフォアボールを出して降板したあと、後続のピッチャーたちが大炎上して逆転されたとしても、あたしにとっちゃ大した問題じゃないのよ。人生にはそういうことだってあるんだよ。


4月の苦しい時期に救援陣を支えてくれたのは河野だし、あの里崎だって「4月のファイターズのMVPは河野」って言ってたじゃない? 誰だって調子が出ない時はあるわよね。野球ってホント、難しいスポーツなんだからね。


あたしはSNSとかなるべく見ないようにしてんだけど、今はひどいみたいね。ちょっとうまくいかなかったり、采配が当たらないだけで、「やめろ」だのなんだの、一斉に書かれるんだってね。誹謗中傷っていうの? おかしな話だよね。


投手起用や作戦には、プロ中のプロたちが考え抜いた「意図」があるのよ。あのベンチにいる腕を組んでるおじさんたちはさ、ちっちゃい頃から野球のエリートで、選手としてもプロで大活躍してきてて、その上で球団の一流企業のお偉い方たちに認められるような社会性だってあるんだよ。 だからこそ監督やコーチなんてやってるわけ。


だからさ、酔っ払いのあんたたちは、打った打たれたの感情でギャーギャー言ってんじゃなくて、ベンチの「意図」を考えて野球って見なきゃダメよ。その上で「意図」を感じないなら、そんときゃ批判でもなんでもしなさいよね。


新庄さんはね、「今日勝つ」ことも大切だけど、「秋に勝つ」ことを最重要ポイントに置いて選手を使ってるんだよ。ちょっとあんた、あたしの話聞いてんの? ずっと呑んで顔真っ赤になってるけどさ。


ねえ、メジャーのワールドシリーズで日本人として初めてヒットを打ったのが新庄さんだって知ってる? 2002年、サンフランシスコ・ジャイアンツで新庄さんはバリー・ボンズの横を守っていたのよ。超一流の野球選手だったわけ。新庄さん、存在がすっごい派手だからさ、ちょっと舐められてるとこあるって思うのよね。


いい? つまりね、あの時代のバリー・ボンズと同じフィールドを守っていたってことは、70年代にスティーヴィー・ワンダーとバンドを組んでいた、もしくは50年代にマイルス・デイヴィスのクインテットにいたことと同じくらいすごいことなんだよ。


え、言ってることわけわかんないって? 何がよ?


でも、アメリカじゃアレでしょ、ピッチクロックとか言って、ピッチャーが投げるまでの時間を制限してるらしいじゃない。牽制球も3球までって決められてるんだってね(え、あんた知らなかったの?)もちろん、試合時間短縮のためなんだって。「ピッチクロックのおかげで試合時間が平均で何分縮められましたうんぬんかんぬん」って、一体どこのアホが何言ってんのよってなるわよね。


あたしはね、ピッチャーがじっくり間を取って投げる権利を彼らから奪わないでほしいし、そもそものそもよ、試合時間が短い方がいいって一体誰が決めたわけ? まったく、今は何でもかんでもショートでしょ、タイパで時短、どうかしてるわよ。あたし、長い試合好きよ。あたしが偉い人になったら、ベースボールのルールを変更して18イニング制にするんだけどなあ。ホント、野球っていつまでだって見てられるんだから。


で、あんたなんであたしのこと「満里奈似」なんて呼ぶわけ? あたしのこと狙ってんの? キモいんだけど。


ま、いっか、今日はあたしの大好きな郡司の大活躍で勝ったわけだし。気分いいじゃない。まだ夕方だから、もう一杯呑んで行こうよ。反省会、いや今日は祝賀会、だね!

ベース・オン・ボールズばかりじゃ勝てない〜僕のファイターズ大航海日誌 #29
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
5月16日 12:18

「オリックスが3点先制したんですけどね」
「万波や石井が調子いいから、いつの間にか追いついちゃってたわよね」
「そうなんです、相手は名実ともにエースの宮城ですからね、いい感じで攻略できました」
「やっぱりレイエスが元気だと点が入るわね」
「ですよね! あ、昨日の2ランスクイズ、見てました?」
「昨日はね、甥っ子たちが家に来てたから、DAZNの追いかけ配信で見たわよ。すごかったわ、新庄さんやるわね」
「僕は一塁側の立ち見席で見てたんですが、あんなにスピード感あふれるプレイもないですよね。ドカンとホームランも面白いですが、ああいうスモールボールの醍醐味もありますよね」
「あら、『スモールボール』って何? 『スモールベースボール』って言い方なら知ってるけど」
「あ、すみません、僕どうしてもメジャーをずっと見ていたもので。『スモールベースボール』って言葉、英語だと『スモールボール』なんですよ。野球英語って、なぜだか日本に入ってくると独自の呼び方になっちゃいますよね」
「そういうの、他にもあるの?」
「ありますよ。『デッドボール』や『フォアボール』も和製英語です。それぞれ、『ヒット・バイ・ピッチ』、『ベース・オン・ボールズ』って呼びます」
「そういえば、『エンタイトル・ツーベース』とも言わないって聞いたことがあるわ」
「そうなんです。『グラウンドルール・ダブル』って言いますね。昔の日本の野球関係者が、みんなで日本なりの名称を考えたんですかね。面白いですよね」
「そういえば、アメリカだと応援団とかもないのよね。今年ドジャースの開幕戦を観たけど、静かでびっくりしちゃったわ」
「確かに応援団はいないんですが、アメリカの観客も、みんなで一斉に掛け声かけるの好きですよ。『ビート・LA!』とか『ボストン・ソックス!』とか、相手をあからさまに煽るチャントをかけたりします」
「そういえば、去年とか大谷くんが打席に入るたびに『MVP!』って声そろえて言ってたわね」
「ですよね。いや、それにしても北海道のお客さんのマナーの良さには、僕は本当に驚いていますし、感動すらしてます」
「あら、他は違うの? 私は北海道でしか野球見たことないから…」
「違いますね。特に僕は甲子園の近くで育ったので、最初に見たものがアレだったから」
「阪神ファンは凄そうね」
「確かにそうなんですが、甲子園の阪神ファンのヤジはなかなか粋で、僕は好きでしたけどね。エスコンのお客さんが、選手の誰かをヤジったりしたのを、僕は聞いたことがありません。むしろ、エラーしたりミスをした選手や、スリーボールになったピッチャーを拍手で励ましたりする。相手チームが牽制をするだけでブーイングをするようなこともしないですよね」
「そうそう、あの牽制の時にブーイングされるの嫌よねえ」
「だからエスコンのお客さんは、あのブーイングに、暖かい拍手で返すことを思いついた。『牽制したっていいのよ、私たちは応援しているよ』ってね」
「メジャーじゃ牽制のたびにブーイングするの?」
「試合の流れを壊すような牽制をした際には、個人それぞれの意思でブーイングしますが、応援団が一斉にするようなことはないですね。牽制したからブーイングする、みたいなシステム的なものって、見ていて気持ちよくはないですよね」
「わあ、レイエス、2ランよ!」
「これで2点勝ち越し、で8回は河野、9回は正義と。いい形ですね」
「そんなこと言ってる間に、河野が2連続フォアボールじゃない」
「ピッチャー、福谷に替わりました。昨日からの連投ですね」
「福谷も中日からFAで来てくれて、頑張ってるわよね」
「また連続フォアボールだわ。英語ではなんて言うんだっけ?」
「ベース・オン・ボールズ、ですね。1イニングで4つ出してたら、勝てませんよ。押し出しで1点差になっちゃった」
「2アウト満塁、でピッチャーは齋藤友貴哉なのね」
「苦しいとこですね、伸るか反るかの大ばくち。齋藤のおもしろいところですが」
「去年もノーアウト満塁の絶体絶命のピンチを抑えたものね」
「あ!」「あああ」



「逆転満塁ホームラン打たれるなんてね」
「いやあ、派手な逆転ですねえ。まさに齋藤友貴哉らしい展開ですね」
「中継ぎが崩れると一気に流れを持っていかれるわね」
「ベース・オン・ボールズばかりだと、こうなります。今日は負けるべくして負けましたよね」
「こんな日もあるわよね、それでも楽しい試合だったわ。ウチ帰ってレイエスのホームランもう一度見るわ」

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