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「スウィンギン・ニッポン」よ永遠に〜僕のファイターズ大航海日誌 #16
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
4月14日 13:23

日々、エスコンフィールドのライトスタンド、同じ席に座っていると、自然と周りの顔ぶれがわかってくる。「あ、この人も今日も来てるな」なんて。そんなふうに少しずつ、この場所が自分の居場所になっていく感覚がある。

 

最近では、声をかけてもらうことも増えてきた。「応援団に入りませんか? 楽しいですよ」なんて、隣のご夫婦に誘われたりして。正直、ちょっと心が動いたのも事実。

 

僕はスコアブック片手に静かに観るのが好きだけれど、応援という文化が日本の野球を育ててきたというのも、心からそう思っている。

 

試合のある日はなるべく早く球場に来て、選手たちの練習を見るようにしている。珈琲を飲みながら、大好きなミスドをいただきながら(エスコングルメのおかげで太らないように気をつけないといけない日々)。エスコンの高い天井を見上げて、ぼーっといろんなことに思いをはせたりしている。

 

そんな僕にとって、試合前の楽しみのひとつが、球場に流れる音楽だ。今シーズンから流れるようになったのが、氣志團の『スウィンギン・ニッポン』。

 

一聴すると自分が好んで聴くタイプの曲ではないと判断してしまいそうになるんだけど、思いがけず、心に響く曲だった。胸が熱くなる。強めのメッセージがこめられているんだけど、視点が自然。この国のことが「普通に好き」な僕らの心にしっかりと届く。「普通に好き」でいいじゃんってね。何より、この曲には、作った人の魂のようなものが確かに宿っている気がする。「この国を応援したい」「この場所を肯定したい」――そんな思いが、まっすぐに響いてくる。

 

『スウィンギン・ニッポン』が流れるたびに、「いろいろあるけど、まあもうちょっとがんばってみようかな」と思う僕です。

 

さて、ファイターズ。昨日の試合は完敗。スコアは7対1と大差だった。エラーするわホームラン打たれるわ、ミスも多く、見せ場に欠ける試合展開だった。

でも、そんな中にも“よかったこと”はある。たとえば――

 

3回、唯一の得点につながったのは「新4番」野村のタイムリーヒット。20球近くファウルで粘って、最後にライト前にしぶとく運んだ。打点もここまでしっかり稼いでいて、新聞によれば「4番・野村」計画は継続とのこと。もう一段階だけ活躍のギアが上がってくれるとさらに嬉しいけどね。毎日見ていて思うのは、彼がとても真摯に野球と向き合っているということ。

 

僕はこの「4番続行」に心から賛成です。野村が「真4番」になってくれたら…強いよ。

 

今週はエスコンで試合がありません。僕もそのあいだに東京へ出張して、しっかり仕事してきます。楽しみなレコーディング立ち会い、先輩のライブを拝見したり、新しい仕事のパートナーのスタジオにも伺ってきます。

 

来週は野球から少し離れて、音楽の時間です。東京でお会いできるみなさんと、また違う形で時間を共有できることを楽しみにしています。

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ぐんぐん郡司のサヨナラホームランの巻〜僕のファイターズ大航海日誌 #14
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
4月12日 10:05

締め切りまで少し時間がある作曲の仕事を、毎日少しずつ進めている。
 

今回は、僕を含めた三人でのコライト(共作)。先手の「トラックメーカー」がトラックを制作し、次に僕が「トップライン」(歌詞とメロディー)を乗せ(←イマココ)、最後にプロデューサー的な三人目が全体をまとめるという流れ。

一人で最後まで作るのとは違って、新しい視点を得られるのも利点だけれど、なんといっても、それぞれの得意分野を活かせるのがこのスタイルのいいところ。それぞれが自分の持ち場で、職人的に仕事をまっとうすればいい。だから僕はコライトでの作業がとても気に入っている。
 

「トップラインとは何か?」と思われるかもしれませんね。トップラインとは「歌詞とメロディー」のこと。平成までの「作曲」の概念では、トップラインを作ることがそのまま「作曲」と呼ばれていたけれど、今はもう違う。音を作る人(トラックメーカーやプロデューサー)も作曲クレジットに含めることが、当たり前になってきている。だから最近のヒット曲のクレジットには、たくさんの名前が並んでいることが多いのです。時代は変わる。どれだけ「変わらない普遍性」が大切だとしても、時代の流れには逆らえない部分がある。これからの「作曲家」にとって、「コライト」は必須になっていくと思う。


「シーズンシートですか?」
エスコンフィールドで試合がある日は、なるべく早めにライトスタンドのいつもの指定席に腰を下ろし、ビジターチームの打撃練習やファイターズのシートノックを眺めることにしている。そんなゆるやかな時間に、昨日は隣に座っていたご夫婦の男性が話しかけてきた。
 

「はい」と僕が答えると、「私たちも毎日ここに通っていて、いろんな席で観てるんですよ。ここの席にも今年あと何度か来ます。よろしくお願いしますね」と、にこやかに言ってくれた。
 

昨日は来場者全員にファイターズのユニフォームが配られていて、観客のほとんどがそれを着ていた。僕も着た。ブルーとブラックに染まったスタンドを見渡すと、まるで球場全体が、脈打つ巨大なひとつの生き物のようにうねっていた。
 

西武ライオンズの悲運のエース・今井達也、ファイターズは山崎福也。空前の投手戦。6回を終えて、両チームともノーヒット。結局、ふたりはともに8回を無失点で投げきったナイスピッチング。
 

ここからがファイターズのブルペンの見せ場だった。田中正義は伸びのあるストレートで、池田隆英はテンポよく、河野竜生は緩急を活かして、杉浦稔大は気迫で、それぞれの持ち場で職人たちは見事に期待に応えた。延長12回をゼロでつないだファイターズ投手陣、素晴らしかった。
 

そして延長12回裏。2アウト、ランナーなしで万波が四球で歩く。松本剛が代走。
 

そして場内にアナウンスが響いた。「代打、郡司」。打つべき手は打った。あとはそれぞれが、仕事をまっとうするだけだ。
 

アウトになれば試合終了という場面で、松本は見事に盗塁を決めた。そして郡司は、ツーストライクに追い込まれたあとの決めにいったフォークボールを、ライトへ――技ありのホームラン。打球は僕たちが待つライトスタンドへ向かって飛んできた。サヨナラホームラン。


 

誰もが立ち上がって、郡司の名前を呼んだ。名前を呼ぶことでしか表現できない感情がある。「郡司!」僕も叫んだ。前の席で一人でクールに観戦していた男性と僕はハイタッチした。隣のご夫婦とも硬く握手を交わした。
 

年に何度も見られないような試合を、何度も見せてくれたのが昨年のファイターズだった。今年も始まった、ついに、ちゃんと、始まった。

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「応援団とシャケ」球場の音・考〜僕のファイターズ大航海日誌 #13
成瀬英樹
成瀬英樹
4月7日 12:44

今年の野球シーズンは、大谷翔平の凱旋来日公演で幕を開けました。メジャーリーグの応援スタイルっていうのは鳴り物や応援歌などがないものですから、それを見たテレビのコメンテーターが「日本の野球も応援なんかなくせばいい」みたいなことを言って、軽く炎上していましたね。


応援については僕も割といろいろに思うことがあるんですよね、やっぱり。基本的には僕も日本のプロ野球の「応援団」「鳴り物」の応援はない方がいいとは思っています。

 

いや、待ってください、どうか話は最後まで聞いてください。

 

僕は2004年から20年間、日本のプロ野球を完全にボイコットしてきた人間です。子供の頃から熱烈に応援していた「近鉄バファローズ」という球団を、「球界再編」と呼ばれる、なんだかわからない「大人の事情」で奪われてしまったからです。その怒りをどうすればいいのか分からず、自分というプロ野球ファンをこの世から消すように、球場に一切行かずボイコットするという選択をしました。そして完全にメジャーリーグに全振りして、恋人に去られた傷を癒すように、メジャーに没頭していったわけです。その結果、DAZNで解説の仕事をいただいたり、アメリカの球場を巡ったりと、ちょっとミュージシャンとしては変わった方向にまで行ったのですが。いまでもMLBは僕の人生のほとんどです。

 

アメリカの球場って、やっぱり応援団がないことで野球がとても集中して見られるんですよね。選手の一挙一動、投手と打者の駆け引き、観客のざわめき。そういった要素がダイレクトに伝わってきます。だから、日本の野球もアメリカのスタイルを参考にしてきた流れがある以上、応援スタイルのあり方も一つの選択肢として考えていいんじゃないかと、ずっと思っていました。

 

この空白の20年間、浦島太郎状態の僕が日本のプロ野球をまた見てみようかなと思ったきっかけが二つあります。ひとつは、オリックス・バファローズの躍進。そしてもうひとつが、エスコンフィールドの開場です。

 

オリックス・バファローズというのは、もともとオリックス・ブルーウェーブでして、僕の地元・神戸に本拠地があり、90年代~00年代までは一番よく観に行っていた球場、球団でした。近鉄バファローズとともに僕が心から愛した球団の一つでもあります。でも、結果的にオリックスという球団が近鉄を「吸収」した当事者であることは、僕の中で簡単に消せる記憶ではないんですよね。つまり、二番目に愛していた球団が、一番愛していた球団を“食った”という状態になってしまったわけで、ものすごく複雑な感情を持ち続けてきました。10年ほど前にオリックスがイベントで近鉄バファローズのユニフォームを着て試合をした時は、本気で「喧嘩売ってる?」と思いましたし、当時の近鉄難民(僕らは自虐をこめてこう呼びます)はみんなかなり、怒っていたと思います。

 

ちょっと想像してみてください。もしあなたが大好きなチーム(例えば阪神タイガース)が、来年から読売ジャイアンツと統合になって「読売タイガース」として活動しますと言われたらどうでしょう? 両チームからいい選手はプロテクトして、残りの選手は別の新興チームへ。メンバーもバラバラになります。…こんな声明が出たら、どうなりますか? これを現実にやったのです。あの時、オリックスと近鉄は。そしてそれをなし崩し的に許したのです、NPBは。ああ、書いていてまた腹が立ってきました。

 

でもね、数年前、ふと山本由伸くんや吉田正尚くんたちが活躍して3連覇していた姿を見て「この子たちは僕が根に持っていることなんか知らずに、ただ一生懸命プレーしてるだけなんだな」と思ったんです。で、もうオリックスがやったことはやったこととして、「もう許してやろう」と思った。もう時は流れた。いいじゃないか、と。

 

そうして改めて日本のプロ野球を見てみたら、やっぱり面白かったんです。その頃ちょうど、娘が北海道の大学に通っていたこともあって、よく北海道に来ていて、エスコンフィールドの初年度には2、3回観に行きました。あの球場を見た瞬間に、アメリカの球場に全然負けていないじゃないかと感じました。心から感動しました。その感動がじわじわと大きくなっていって、最終的に僕は娘のいた北海道に移住することになったんです。娘が入れ替わりに東京の大学に編入して行ったタイミングで、娘が住んでいた部屋で仕事をしながら、エスコンに通うことに決めたのです。

 

さて、話を少し戻しましょう。応援団についてです。この20年間、日本のプロ野球を支えてきたのは、まさにファンの皆さんの努力のおかげです。今のプロ野球コンテンツって、ほんとすごいですよ。めちゃくちゃ盛り上がってる。20年前なんて、「地上波終わった」「巨人の人気がなくなった」「もうプロ野球終わりだ」なんて言われてました。でも実際は、いま全球団がきっと黒字経営しているんじゃないかというくらい、しっかりとファンが根付いているんです。

 

これはNPBの努力ももちろんですが、それ以上にファンのみなさんの努力のおかげです。応援団の皆さんもその中にしっかり含まれていると思います。スタンドで鳴り物を鳴らしながら応援し続けたことで、新しいファンが増えたというのも事実でしょう。だから、簡単に「応援団なんかなくせ」とか「鳴り物をなくせ」など、僕は言えません。むしろ感謝しかないです。だってその応援があったからこそ、いま僕がまたNPBに夢中になれる日々を取り戻せたんですから。「応援」は日本野球の文化であり、日本野球が生き残った理由の大きな一つであることは間違いないはずです。

 

だから一つだけ。楽器の中で「パーカッション」というカテゴリーがあります。カスタネットとかタンバリン、もちろんドラムも。いろんなものを叩いて音を出す。で、パーカッションの世界には、プラスチック製のものってないんですよ、寡聞ながらプラスチック素材を叩いて音を出す楽器が市民権を得た例を僕は知らない。なぜならプラスティックはどうしても耳に刺さる高音域の音が出てしまう。人の耳があの音を「快い」と感じることはないと思うのです。じゃあなぜプラスチック製のスティックを叩くのか、それは「安価な素材で大きな音を出したい」という理由であろうと。あの素材は「合奏」には向きません。しんどい人には本当にしんどい。僕は残念ながら、NPB観戦時は耳栓をして観ています。おかげであらゆる種類の耳栓に詳しくなりました。

 

だから、応援団そのものに文句を言っているのではなくて、「プラスチック製の鳴り物だけやめませんか?」という、ほんの小さな提案です。代わりに、手拍子でいいじゃないですか。自分の手でパンパン叩く。痛くなったらやめればいい。試合の終盤で手が赤くなるくらい叩いたら、それだけ応援したっていう実感も湧くと思うんですよね。

 

もしくは、応援団席の人たち以外は、プラスチックのスティックを使わないようにするマナーを定めるとか。球場にはお年寄りも、子供も、お若い方もたくさん来ます。応援したい人、静かにじっくり見たい人、いろんな人が共存できるスタジアムであれば、より素晴らしいなと思うんです。

 

球場で流れる音楽についても少し触れておきます。たとえば、エスコンフィールドでは今年のオープン戦まではイニングの合間にSMAPの『SHAKE』が流れていました。日本ハムファイターズには『シャケ丸』という鮭の形をした、とても可愛い応援キャラクターがいるんですけど、おそらくその“シャケ”にかけた“シェイク”という洒落だったんだと思います。開幕前までは普通にかかっていたんですが、3月31日にフジテレビの第三者委員会の発表があって以降、開幕後しばらくは『SHAKE』は流されなくなっていました。「ああ、やっぱりエスコンもそういうことを考慮して、流さないようにしてるんだな」と思っていたら、ここ二試合ほど、またイニングの合間に『SHAKE』がかかるようになっていました。

 

僕個人としての意見はふたつあります。まず、ソングライターとしての視点から言えば、いろんなことがあっても曲が“死んでしまう”というのはできるだけ避けたいという思いがあります。たとえ今回のような不祥事が起きたとしても、楽曲自体には罪はないわけで、公の場で普通にかけてもいい、という考え方は、作り手にとってはとてもありがたいものです。

 

一方で、やっぱりああいう出来事の直後に、球場のように老若男女が集まる空間であの曲を流すことに、違和感を覚える人がいるのも当然だと思うんです。僕の見解としては、単純に“シャケ”にかけて『SHAKE』を使っていたんだろうなという印象で、そこに強いポリシーや意志があったとは思えません。だとすれば、「今は別に無理して流さなくてもいいんじゃないかな」くらいのスタンスでいいと思うんですよね。

 

実際、『SHAKE』が流れた瞬間に、おおっと場内がざわついたり、ああ…と何かを察するような空気になったりする。それが野球観戦の空気を少しでも乱してしまうのなら、それは避けたほうがいいと正直思いました。決して「SMAPの曲を公の場でかけてはいけない」という話ではなくて、もし理由が“シャケにシェイク”という単なるダジャレだけなのであれば、たとえばCarsの『Shake It Up』なんて曲でも、十分に球場は盛り上がると思うんです。ベースボールとアメリカンポップスは相性がいいですしね。

 

みんなが純粋に楽しめる選曲。そういう視点もこれからの球場には大事なんじゃないかなと、そんなふうに感じた出来事でした。

 

さて、昨日のファイターズの試合。もちろん清宮の守備とか、矢澤の後一歩追いつけなかったセンターフライとか、色々ありますけど、6回の中川による逆転3ラン、これに尽きます。「ここを抑えたら勝つ」という勝負どころで一番悪い結果が出たら、なかなか勝てるものじゃありません。オリックスにホームで三連敗を喰らうというなかなかタフなはじまり方をした今シーズン。今週は1勝4敗と苦しい戦いになりましたが、長いシーズンこういうこともありますよ。

 

運、なんだよなあ〜僕のファイターズ大航海日誌 #12
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
4月6日 10:14

僕は勝ち負けに一喜一憂しない。勝ったらうれしいけど、負けて悔しくたって腹を立てたり機嫌が悪くなったりすることはない。「やれやれ」くらいは思うけど、それ以上でもそれ以下でもない。

 

子どもの頃、夏休みになると父と一緒に甲子園や西宮球場に足を運んでいた。勝っても負けても、そこで見たプレーや応援の光景は心に残っている。野球はそういうものなんだと、あの頃から思っていた。

 

だってね、一番勝ちたいのは選手たちだし、そのために彼らが毎日どれだけの努力をしているかは見ていればわかる。誰よりも自分たちに厳しく、チームの勝利のために準備をしている。その姿勢がある限り、僕は勝敗以上に彼らの「やってきたこと」を信じたいと思う。僕らはその姿を見に球場へ行くんだ。

 

だからこそ「なんであそこで打てないんだ」「なぜ交代しないんだ」なんて声には少し距離を置いてしまう。野球は本当に難しいスポーツだということを僕は知っているから。例えば、打者は0.3秒の間に150キロの球種を見極めてスイングしなければならないし、守備では打球の方向とバウンドを一瞬で判断して身体を動かす必要がある。作戦一つとっても、相手のデータと選手の調子を天秤にかけて決めるものだ。そして采配を振るう側もプロ中のプロである。「なぜそこでその作戦なんだよ!」「なぜ〇〇を使わないんだよ!」なんて考え方を僕はしたことがない。すべての決断には、その背景に緻密な準備と判断がある。

 

それって、僕たちの仕事でいうと「なぜそこにその歌詞が来るんだよ!」「なぜこのコードの後にブレイクをつけないんだよ!」と観客から言われるようなものである。なぜって? そこには意図があるからに決まってるだろう? そして、その意図が失敗することだってある。というか、失敗の方が多いのだ。うまくいかないからこそ、次に活かすことができる。そして、どんなことでもそうだが、失敗からしか学べないのである。

 

昨日の試合は11対1で負けた。スコアだけ見ればワンサイドゲームだったし、実際に試合内容も苦しかった。初回から流れはオリックスに傾き、スタンドの空気もどんどん重たく沈んでいった。誰もが、これは厳しい試合になるぞと感じていたと思う。先発の金村が初回に頓宮にスリーランを浴びたのがすべて。たった一球、でもその一球が試合の流れを決めてしまうのが野球の怖さだ。

 

僕はフォアボールとホームランと三振だけがピッチャーの責任だと思っている。MLBを長く見てきたせいで、その考え方が身に沁みている。つまりフィールドに飛んだ打球がアウトになるかどうかは運であり、どれだけ完璧なスイングでも正面を突けばアウトだし、ボテボテのゴロでも間に合えばヒットになる。

 

MLBには「BAPIP」という指標があり、それは「ホームラン、四死球、三振」以外のフィールドに飛んだ打球の打率のこと。つまり「どれだけ運によって左右されているか」を数字で見るもの。完璧な指標ではないが、ある選手がある年突然打率が上がって翌年に急に下がったりするのはこのBAPIPを見れば「なるほど、この年はフィールドに飛んだ打球が安打になる確率が高い=運が良かった」のね、と考えることができるのだ。

 

この指標は「被BAPIP」で投手にも使える。たとえば、芯を外して打たせたはずの打球が、ちょうどセカンドとライトの間に落ちてしまうことがある。逆に、完璧に捉えられた打球でもサードの真正面だったらアウトになる。どれだけ芯を外した打球で打ち取っても、なぜか誰もいないところに飛んでしまったり、どれだけ強い打球が飛んだとしても、キャッチしてしまえばそれはアウトなのだ。野球って、ほとんどのプレイが運によって左右されている。「ホームラン、四死球、三振」以外は。

 

だから、ホームランを打てる選手は貴重だし、四球が多い投手は評価が下がるし、三振が取れる投手は試合終盤の大切なところに起用されるのだ。すべてその逆もしかりだ。数字の裏には物語があるし、スタッツには選手たちの見えない努力が詰まっている。

 

オリックス九里投手の投球。メジャーによくいる、打たせて取るピッチャー。初回に万波に見事なホームランを打たれたあとは、打者の芯を外す投球に徹し、ホームラン以後のヒットは内野安打二本と、清宮によるセカンドの頭を超えたヒット二本だけ。見事だった。

 

完敗。昨日の宮城といい、オリックスの先発投手に二日続けて完璧にやられてしまったなという印象。相手が上手だった。それに尽きる。こちらが悪かったというより、相手がそれを上回った。そういう試合もある。

 

連投の山本拓、松岡も失点を重ねたけれど、あの展開ではある程度やむを得ないと見た。松岡は二死からの失点が二イニング続いたのが評価を下げたかもしれない。一つは内野安打から、一つは四球から。そんなものである。でもね、こういう登板の中でも経験は蓄積されていく。若い投手には失敗も財産だ。

 

八回。完全に試合が決していた場面で登板した福谷。いわゆる敗戦処理の場面だが、彼がそんな投手でないことは観客もみんな知っている。場内に名前がコールされた時、ライトスタンドからは大きな拍手が起きたことを伝えておきたい。FAでやってきた投手がこの場面で投げてくれる。中日からの移籍後、目立つ場面での登板は少なかったが、彼の真摯な姿勢や人柄はファンの間でも評価が高く、地道に積み上げてきた信頼が、この拍手の大きさに現れていた。チーム事情はもちろんわからないが、グッと来るではないか。見事な投球で三者凡退、スタンドの拍手は一番大きかった。ああいう投球は胸を打つ。

 

最後に投げた齋藤友貴哉、157キロのストレートは鮮烈だったけれど、こちらも二死からフォアボール二つからのタイムリーでの失点。これでは安定感がない、と評価されてもしかたがないかな。でも、157キロの直球には夢がある。今日ダメでも、明日がある。僕はそう思っている。

 

さあ、今日もデーゲーム。先発が二試合続けて崩れているので、バーヘイゲンにはなんとか良い投球で試合を作ってほしい。初回の立ち上がりを大切に、リズムよく、テンポよく。きっと試合は締まった展開になるはずだ。

 

スタンドには、どんな時でも背中を押し続けるファンがいる。昨日の悔しさを胸に、今日の一球一球に希望を込めて。大丈夫、すべては「運」なんだ。みんなの努力が今日は実るって、僕は信じてるよ!

 

 

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