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おはようございます。
昨日のZoomミーティングの振り返り配信を、たくさんのメンバーが見てくれたことが本当にうれしい。各曲について、自分なりの正直な感想や印象を話したんだけど、もしかしたらちょっと踏み込みすぎたかもしれない。特にアレンジの方向性やメロディの構成について、少し厳しいことを言った場面があったかもしれない。もしそうだったとしたら、ごめん。でも、あれは曲づくりへの真剣さから出た言葉だと思ってほしい。
とはいえ、あれはあくまで僕の視点。みんなそれぞれ好みや感覚が違うからね。ただ、ポップスの世界に長いこと身を置いてきた人間としての意見を述べただけだ。最終的な決定を下すのは僕じゃなくてクライアントさんなんだし、僕も同じ戦場を駆け回る一兵卒にすぎないんだ。
それでも、BINGO!のメンバーが選んだ曲が実際の採用結果とどんどん合致してきているのは事実だと思う。ソングライターにとって、「作る」こと以上に大事なのは「選ぶ」こと。たとえば、ある曲ではイントロのギターリフを残すべきか、それとももっとシンプルなピアノに置き換えるべきかを議論したり、別の曲ではサビのメロディを少し変えてもっと耳に残るように工夫することが採用への決め手になったりした。そのような選択の積み重ねが曲の完成度を大きく左右するんだ。そのスキルを鍛えるには、同じコンペ条件で提出された曲をミーティングで聴くのが、いちばん効果的なんじゃないかと僕は思う。
思えば。BINGO!を立ち上げて、もう三年。最初の一年は、コンペに出しても全然成果が出なかった。オリジナルメンバーの四人、つまり僕と、マツダヒロ、白井大輔、そして元少年ナイフのリツコが、ひたすら曲を聴いては率直に語り合う日々が続いた。若くもない、どちらかと言えば“オワコン”扱いされがちな音楽家の集まりだったんだけど。
そこにネロが加わってから、一気に二曲採用された。「作詞:秋元康、作曲:nelo」というクレジットのインパクトは大きかった。ネロの主戦場「パワーポップ界隈」でも、祝福の声が一斉に上がってね。正直、僕もめちゃくちゃうれしかった。令和っぽさと昭和レトロ感が混じり合った彼独特の持ち味が勝ち取ったとき、「あれ、ほかのメンバーもいけるんじゃないか?」っていう現実味が一気に増したんだ。「どうせダメだろう」というあきらめを吹き飛ばす、そういう風が吹いた瞬間だった。
天性のメロディメーカーであるマツダヒロは、53曲ものキープを経て、ようやく昨夏AKB48の「思いやり」で作家デビューを果たした。36歳だった。初採用まで三年かかった彼を不器用にも程があるって思うかい? ちなみに僕が初めて採用されたのは四年半だから、そう考えると別に遅くはないんだよ。彼は「自分が歌うためのメロディ」から「誰が歌っても良いメロディ」作りへと脱皮することで成長していった。結局、粘り強く続けられるかどうかがカギなんだよね。
一方の白井は、46歳。昨年作曲家デビュー。風輪さんの「人生TENKI」でオリコン6位に入った。僕も共作としてクレジットに名を連ねているから、いっしょに喜べたのがよりいっそううれしかった。白井とはかれこれ25年、マツダとは10年近い付き合いだ。二人とも、今までにチャンスをつかみきれなかったことだってある。それでもライブ活動や曲づくりをコツコツ続けてきた。
僕自身、シンガーソングライターとしてやっていくことがどれほど大変か、つまり、売れないシンガーソングライターで生き延びるのがどれほどきついか、痛いほどわかってる。でも、もし他の人に提供した曲が一曲でも大きなヒットにつながったら?
たとえばキャロル・キングに「ロコモーション」があるように、桑田佳祐さんに「恋人も濡れる街角」があるように、スガシカオさんに「夜空ノムコウ」、中島みゆきさんに「あばよ」、玉置浩二さんに「愛なんだ」があるように。自分のアーティストとしての活動を続けつつ、ほかの人にもヒット曲を提供できる作家に、僕はずっと憧れてきた。大人になった今でも歌えるような「君は僕だ」とか「君はメロディー」みたいな曲たちが、僕を支えてくれたんだ。
2016年に、「君はメロディー」で僕が夢見てきた「ミリオンセラー、紅白、ランキング1位」を一気に達成した。僕が48歳になるタイミングと重なったのは、ちょっと悪戯めいた偶然に思える。でも、そのあと僕は燃え尽きてしまった。「さて、この先、何を目指せばいい? またミリオン? この戦いはいつまで続くんだろう?」そんなふうに考え始めたら、どうにも足元がぐらついた。今にして思うと、あれが僕のミッドライフクライシスだったのかもしれない。
「普遍性」とは何なのか——それは僕がずっと探し続けているものだ。メロディとハーモニーには古びない力がある。
白井の曲も、松田の曲も、いつだってあたたかくて優しくて、でもどこか「オールドファッション」なムードが漂う。例えば、白井の曲にはアコースティックギターを中心とした素朴で牧歌的な雰囲気があり、松田の曲はシンプルなコード進行と耳に馴染むメロディが特徴だ。どちらも現代の派手なアレンジとは一線を画すものだけど、それが逆に心地よさを生んでいるんだ。だけど、その「オールドファッション」を「懐かしさ」に昇華できれば、大きく変わる。時代を超えた懐かしさって、やっぱり素敵だと思うし、ヒットを生み出すためのひとつの鍵なんだと思う。
BINGO!では、たとえば「ナッポゼミ」みたいにコライトに特化したワークショップをやったり、初心者でも参加しやすい「松田ゼミ」でメロディづくりを学んだりもできる。僕の担当している「成瀬ゼミ」は、今走っているコンペで結果を出すこと、そして作家それぞれのスタイルを確立すること、その両面を重視している。むしろ、コンペで結果を出すことを望むなら、作家のスタイルを先に確立することが大切だ。逆はない。
今や、作家たちが事務所というチームを作ることが当たり前になってきている。少し前では考えられなかったことだ。(もしBINGO! がその先鞭めいたものとして覚えてもらえるなら嬉しい)
船にたとえよう。僕は豪華客船より、小さなボートがいい。誰でも乗り込めるようなラフで自由な作り方がいいんだ。エリートチームじゃなく、弱小チームのほうが性に合ってるんだ。僕だって本当にポンコツだったんだ(きっと今もそうだけど)。それでもなんか、あきらめることだけはしなかったんだよね。誰に認められていなくても、僕は自分の曲の良さに気がついていたから。そして少しずつ、一曲書くごとに成長していっているのがわかったから。採用が決まった時は嬉しかったよ。自分のバンドがデビューした時よりも格段に嬉しかった。僕でもできるんだって思った。だって、自分がいかに才能のない怠惰な人間かを一番知っているのはこの僕自身だったから。そんな僕でも、奮起すれば出来るんだって。
だから、君もきっと、出来る。そう伝えたくて、BINGO! を作りました。
うまくいかないこともあるし、思わぬところでつまずいたりもするけど、それでも進んでいけば必ず変化の瞬間は訪れると信じてる。音楽は旅みたいなものだし、その一歩一歩が新しいメロディを生み出してくれる。だから、これからも一緒に歩いていこう。
ジョン・レノンが「マザー」で歌っていたじゃないか。
「子どもたちよ、僕の真似をするな 僕は、歩けないのに、走ろうとしてしまったんだ」