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運、なんだよなあ〜僕のファイターズ大航海日誌 #12
成瀬英樹
成瀬英樹
4月6日 10:14

僕は勝ち負けに一喜一憂しない。勝ったらうれしいけど、負けて悔しくたって腹を立てたり機嫌が悪くなったりすることはない。「やれやれ」くらいは思うけど、それ以上でもそれ以下でもない。

 

子どもの頃、夏休みになると父と一緒に甲子園や西宮球場に足を運んでいた。勝っても負けても、そこで見たプレーや応援の光景は心に残っている。野球はそういうものなんだと、あの頃から思っていた。

 

だってね、一番勝ちたいのは選手たちだし、そのために彼らが毎日どれだけの努力をしているかは見ていればわかる。誰よりも自分たちに厳しく、チームの勝利のために準備をしている。その姿勢がある限り、僕は勝敗以上に彼らの「やってきたこと」を信じたいと思う。僕らはその姿を見に球場へ行くんだ。

 

だからこそ「なんであそこで打てないんだ」「なぜ交代しないんだ」なんて声には少し距離を置いてしまう。野球は本当に難しいスポーツだということを僕は知っているから。例えば、打者は0.3秒の間に150キロの球種を見極めてスイングしなければならないし、守備では打球の方向とバウンドを一瞬で判断して身体を動かす必要がある。作戦一つとっても、相手のデータと選手の調子を天秤にかけて決めるものだ。そして采配を振るう側もプロ中のプロである。「なぜそこでその作戦なんだよ!」「なぜ〇〇を使わないんだよ!」なんて考え方を僕はしたことがない。すべての決断には、その背景に緻密な準備と判断がある。

 

それって、僕たちの仕事でいうと「なぜそこにその歌詞が来るんだよ!」「なぜこのコードの後にブレイクをつけないんだよ!」と観客から言われるようなものである。なぜって? そこには意図があるからに決まってるだろう? そして、その意図が失敗することだってある。というか、失敗の方が多いのだ。うまくいかないからこそ、次に活かすことができる。そして、どんなことでもそうだが、失敗からしか学べないのである。

 

昨日の試合は11対1で負けた。スコアだけ見ればワンサイドゲームだったし、実際に試合内容も苦しかった。初回から流れはオリックスに傾き、スタンドの空気もどんどん重たく沈んでいった。誰もが、これは厳しい試合になるぞと感じていたと思う。先発の金村が初回に頓宮にスリーランを浴びたのがすべて。たった一球、でもその一球が試合の流れを決めてしまうのが野球の怖さだ。

 

僕はフォアボールとホームランと三振だけがピッチャーの責任だと思っている。MLBを長く見てきたせいで、その考え方が身に沁みている。つまりフィールドに飛んだ打球がアウトになるかどうかは運であり、どれだけ完璧なスイングでも正面を突けばアウトだし、ボテボテのゴロでも間に合えばヒットになる。

 

MLBには「BAPIP」という指標があり、それは「ホームラン、四死球、三振」以外のフィールドに飛んだ打球の打率のこと。つまり「どれだけ運によって左右されているか」を数字で見るもの。完璧な指標ではないが、ある選手がある年突然打率が上がって翌年に急に下がったりするのはこのBAPIPを見れば「なるほど、この年はフィールドに飛んだ打球が安打になる確率が高い=運が良かった」のね、と考えることができるのだ。

 

この指標は「被BAPIP」で投手にも使える。たとえば、芯を外して打たせたはずの打球が、ちょうどセカンドとライトの間に落ちてしまうことがある。逆に、完璧に捉えられた打球でもサードの真正面だったらアウトになる。どれだけ芯を外した打球で打ち取っても、なぜか誰もいないところに飛んでしまったり、どれだけ強い打球が飛んだとしても、キャッチしてしまえばそれはアウトなのだ。野球って、ほとんどのプレイが運によって左右されている。「ホームラン、四死球、三振」以外は。

 

だから、ホームランを打てる選手は貴重だし、四球が多い投手は評価が下がるし、三振が取れる投手は試合終盤の大切なところに起用されるのだ。すべてその逆もしかりだ。数字の裏には物語があるし、スタッツには選手たちの見えない努力が詰まっている。

 

オリックス九里投手の投球。メジャーによくいる、打たせて取るピッチャー。初回に万波に見事なホームランを打たれたあとは、打者の芯を外す投球に徹し、ホームラン以後のヒットは内野安打二本と、清宮によるセカンドの頭を超えたヒット二本だけ。見事だった。

 

完敗。昨日の宮城といい、オリックスの先発投手に二日続けて完璧にやられてしまったなという印象。相手が上手だった。それに尽きる。こちらが悪かったというより、相手がそれを上回った。そういう試合もある。

 

連投の山本拓、松岡も失点を重ねたけれど、あの展開ではある程度やむを得ないと見た。松岡は二死からの失点が二イニング続いたのが評価を下げたかもしれない。一つは内野安打から、一つは四球から。そんなものである。でもね、こういう登板の中でも経験は蓄積されていく。若い投手には失敗も財産だ。

 

八回。完全に試合が決していた場面で登板した福谷。いわゆる敗戦処理の場面だが、彼がそんな投手でないことは観客もみんな知っている。場内に名前がコールされた時、ライトスタンドからは大きな拍手が起きたことを伝えておきたい。FAでやってきた投手がこの場面で投げてくれる。中日からの移籍後、目立つ場面での登板は少なかったが、彼の真摯な姿勢や人柄はファンの間でも評価が高く、地道に積み上げてきた信頼が、この拍手の大きさに現れていた。チーム事情はもちろんわからないが、グッと来るではないか。見事な投球で三者凡退、スタンドの拍手は一番大きかった。ああいう投球は胸を打つ。

 

最後に投げた齋藤友貴哉、157キロのストレートは鮮烈だったけれど、こちらも二死からフォアボール二つからのタイムリーでの失点。これでは安定感がない、と評価されてもしかたがないかな。でも、157キロの直球には夢がある。今日ダメでも、明日がある。僕はそう思っている。

 

さあ、今日もデーゲーム。先発が二試合続けて崩れているので、バーヘイゲンにはなんとか良い投球で試合を作ってほしい。初回の立ち上がりを大切に、リズムよく、テンポよく。きっと試合は締まった展開になるはずだ。

 

スタンドには、どんな時でも背中を押し続けるファンがいる。昨日の悔しさを胸に、今日の一球一球に希望を込めて。大丈夫、すべては「運」なんだ。みんなの努力が今日は実るって、僕は信じてるよ!

 

 

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