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街の灯台へ〜僕のファイターズ大航海日誌 #15
成瀬英樹
成瀬英樹
4月13日 11:36

エスコンフィールドから、混雑なくバスに乗って帰る方法を何度か書いたことがあるが、土日のデイゲーム終了時は、僕はいつも、混み合う新札幌行きではなく、土日だけ運行されている「野幌行き」に乗る。

 

野幌行きは、新札幌や北広島行きに比べると、バスは比較的空いている。昨日も試合終了後、20分も並ばなかったと思う。そして僕のもう一つの楽しみは、野幌駅の駅前にある『街の灯台 喫茶ファロ』に寄ることである。

 

ここはアナログレコードでジャズがかかっていたり、サイフォンで美味しい珈琲を淹れてくれる名店なのだが、ファイターズを含む「野球文化」への深い愛情を感じることも特筆したい。狂信的な「〇〇ファン」ではなく、野球文化そのものを丸ごと愛するご夫婦(もちろんファイターズファンでもある)が経営するこのお店は、近頃では僕の憩いの場所。土日のデイゲームが終わった後は、野幌駅行きのバスに乗って、『喫茶ファロ』に寄り、静かなジャズを聴きながらケーキセットを食べ、美味しいコーヒーを飲むのが僕の「小確幸」である。

 

『喫茶ファロ』には趣味の良い素敵な本もたくさん置いてあり、その中に野球関係のものも結構ある。昨日、店内で読んだのが『野球の言葉』という雑誌(ムック)。ちょうど僕が先日読み終えたばかりのポール・オースター『4 3 2 1』の訳者である柴田元幸さんが、小説と野球についてインタビューを受けていて、これが面白かった。『4 3 2 1』でもジャッキー・ロビンソンの逸話や、ドジャースの西部移転(ドジャースはかつてニューヨークのブルックリンにあったのだ)などのエピソードが、重要なストーリーのスタンプとして機能している。そういえば、ポール・オースターが脚本を書いた映画『スモーク』の主人公の小説家も、仕事の合間にしょっちゅうメッツの試合を観ている。ニューヨークでは、生活の中に自然と「野球」がとけこんでいるのだ。

 

この『野球の言葉』の中で、野球の名著として数名が紹介していたのが『男たちの大リーグ』というノンフィクション(デヴィッド・ハルバースタム著/常盤新平訳)だ。原題は『Summer of ’49』という。僕は「Summer of」のあとに年号をつけるタイトルを見るだけで心が騒ぐ。なんと言ってもブライアン・アダムスの『Summer of ’69』を思い出すし、自分でも『Summer of ’88』『Summer of ’96』という2曲を作ったほどである。

 

この本、僕も15年くらい前に読んだことがあるけれど、本当におもしろくて、夢中で読んだ。タイトル通り1949年のヤンキースとレッドソックスのデッドヒートを中心に描かれたノンフィクションだ。誰一人、動いているシーンを見たことのない伝説の選手たちが、名文によって頭の中で生き生きとプレーを始めるのだ。

 

野球と文学はとても相性がいい。この『男たちの大リーグ』はノンフィクションだが、日本にも村上龍『走れ!タカハシ』や小川洋子『博士の愛した数式』など、野球を真ん中に置いた名作がある。

 

さて、昨日の試合は、ファイターズ・金村が6回無失点、ライオンズ・隅田は8回を無失点と、前日に続き投手戦となったが、結局ファイターズはブルペンの池田、柳川が8、9回に1点ずつ失点し、最終回の追い上げも届かず、2-1の敗戦となった。打つべき手はすべて打ったし、連戦でブルペンに疲れが見えるのは仕方がないところ。隅田の投球が素晴らしかったことを讃えたい。それでも最終回、難攻不落の鉄腕・平良から1点をもぎ取り、あと一歩のところまで追い詰めたファイターズ。大丈夫、しっかり強いから。