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Sail Away!〜僕のファイターズ大航海日誌 #40
成瀬英樹
成瀬英樹
6月11日 13:58

今日は「わさび」に呼び出されて、すすきの駅近くのスタジオでコライトセッションをしたよ。「コライトセッション」なんつっても、あんたにはわかんないか。一緒に作曲をするって説明で大丈夫かな。
 

シンガーソングライターの「わさび」と知り合ったのは、ゼロ年代の後半だった。彼女がデビューのきっかけを掴んだあるオーディションがあって、あたしは審査の幕間に歌うゲストシンガーのバンドのギタリストとして、その会場にいた。そこで「10代だけのコンテスト」とかじゃなく、ましてやバンドもソロも一緒くたで審査される中で、まだ高校生だったわさびがギターの弾き語りで優勝したことに、あたしマジで驚いたんだ。
 

他にプロ顔負けの「大人の知恵の入った」派手なバンドがいくつも出場していたのによ。オーディションなんてもの、ろくなもんじゃないって思ってた部分、あたしにもあったからさ、捨てたもんじゃないな、見てくれる人もいるんだなって、心底感心したのよ。
 

わさびは札幌の高校を卒業すると、都内の大学に入学。時を同じくしてシンガーソングライターとしてメジャーデビューした。彼女、あたしが書いた女性シンガーの曲を好きでいてくれたらしく、なんだかんだで友達になったの。あたしも、わさびが書く曲や彼女の声が好きだし。ずいぶん歳が離れた友達だけど、不思議になんでも話せるし、ウマがあうのよね。
 

あれから10年以上流れて、あたしはいろいろあってこうして北海道に流れ着いて、毎日曲を書いて、エスコンで野球を観てる。わさびはシンガー活動の幅を広げながら、ソングライターとしても大活躍してる。わさびが30過ぎたわけだから、あたしもとっくに50の中盤よ。
 

それでもこうして「一緒に曲を作りましょうよ」って、声をかけてもらえるから、あたしは幸せものだよね。あたしのような仕事って「“現役”であるかどうか」が大事だと思うの。古い考えかもしれないけどさ。“現役バリバリ”のわさびとコラボレーションできるから、あたしだってまだまだ現役だよね。
 

近頃じゃ、先にトラックを作って、それにトップラインを乗せることが多いじゃない。あ、トラックっていうのは「カラオケ」のことね。先にカラオケを作っちゃうのよ。まず歌詞があるんじゃないのかって? 今はそんな作り方する人いないのよ。カラオケが先で曲なんて作れるのかって? うん、慣れると簡単なんだ。先に「枠」が決まってるからさ、迷うことがないのよ。トップラインってのはメロディと歌詞のこと。だから現代のコライトっていったら、一人がトラックを作って、一人または数人でトップラインを考えることが多いわけ。
 

でもあたしはやっぱり、ギター一本からメロディと言葉を立ち上げるのが好き。その自由さを愛してる。トラック先行の有利さも現代感も認めた上で、ね。だから、スタジオに入ったら、アコギとシンセが一台ずつ用意されてて、テンション上がったわ。顔突き合わせて楽器を弾いて、一から曲を作ることができるなんて。しかもわさびと。最高じゃない。
 

きっとあたしが呼ばれたからには、わさびにないアイデアをあたしに求めてるんだと思って、役に立てるようなネタを提供しようと、レンタルされたテイラーのアコギをオープンチューニングにしてリフを弾いてた。
 

「あ、そんな感じのがやりたいです」って、わさびが言う。あたしはメロディを乗せてハミングしてみた。そしたらわさび、シンセで続きをザクザク弾きながら、メロディをつけていった。サビのオンコードが効いてて最高だと思ったから、伝えた。
 

キーを調整して「じゃあ録ってみましょう」と、わさびはあたしのギターをMacに繋いで、「ワン、ツー、スリー、フォー」って録音を始めた。わさびもシンセを弾いて同録した。「これBメロなくしてサビにそのまま行っちゃうの、いいかもしれませんね」「うん、あたしもそう思った」なんて、あっという間にご機嫌な曲の出来上がり。ものの20分もかからなかった。わさびとはこういう価値観が合うんだと思うの。「話が早い」ってこと。
 

わさびはMacに向かって、トラックを仕上げようとしてる。イメージを掴めるくらいまで仕上げないと気がすまないのよね。あたしは、彼女が作業してる横で、他にも何個かアイデアを提案できないか思案して、もう二つほどわさびにプレゼンした。
 

ビートルズ『Blackbird』のようなリフを提案したら、わさび、目の前で珠玉のメロディをつけた。敵わないな、ってあたし思った。爽やかな気持ちだった。そして、刺激的。あたしも頑張らないとな、とかではなく、わさびのように、深く音楽に接していたいなって思ったの。言葉にするの、難しいんだけどさ。
 

今日の達くんのピッチング、最高だったよね。7回無失点。4試合投げて防御率が0.34よ。達くんが打たれたとこ、あたしらまだ見たことないのよね。わお。
 

「がたしゅー」こと山縣秀を「道民の孫」と呼ぶセンスは素晴らしいわよね。あのあどけなすぎる顔には抗えないわ。今日も8回ツーアウトからのセーフティバントから追加点を奪えたし、守備も実に「魅せる」のよ。相手から見て、いやらしい選手になってほしいね。
 

去年とは違う形での強さを、今年のファイターズは見せてくれるかも。そんな期待、できるような新しい力の台頭だね。

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