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ここ北海道で、ファイターズとカープの試合を観るようになるなんて、思ってもみんかったわ。ほいでもアレやな、思ってもみんことが起きるんが人生やし、野球やな。こんな7点差ひっくり返すことんなんてあるか? 見たことないわ。僕いっつもiPadでスコアつけてんねんけど、この日は6回までで充電切れてもてん。不思議なもんや。そんなこといっつもないねんけどな。せやから、あの猛烈な逆転劇は、記録されてないねん。それでもええねん。この空白のスコアシートは『充電が切れた』って記録でもあるんや。
広島って、僕、好きやねん。
昔、バンドでデビューしたことあって、そのときキャンペーンライブかなんかで広島に行ったんよ。97年のこっちゃ。ナミキジャンクションってハコやった。ライブのこととか、正直あんまり覚えてへんねんけど、夜みんなで食べに行ったお好み焼きがめっちゃ美味くてな。それ以来、お好み焼きって言うたら広島やと思ってる。大阪のんも悪ないけど、広島のお好みはほんま最高やと思う。
ほいで昔からなんやろ、広島出身のミュージシャンに好きな人が多いねん。矢沢永吉さんも、吉田拓郎さんも、吉川晃司さんもそうやろ。その中でも奥田民生さんが特に好きやねん。ユニコーンの彼もええけど、ソロになってからのんも、すごいええ。僕は昔の広島市民球場に二回行ったことあるけど、そのうちの一回は野球やのうて、奥田民生さんのライブやった。あの球場のど真ん中に一人でギターの弾き語りで民生さんが歌うんや。なんやろなあ、彼の広島への想いとか、カープへの想いとか、そういうのが音の塊になって飛んでるみたいやった。空にはヘリが、でっかい音たてて飛んでてな。
民生さんの声とヘリの音と、広島市民球場の夜の空。曲はなんやったかな、『The STANDARD』やったかもしれん。忘れられへん夜や。
市民球場に行ったもう一回はな、前田智徳の2000本安打を見に行ったときや。僕の弟が広島に縁ある人と結婚してて、その頃広島に住んでたから、弟の家族と僕とで一緒に観に行った。2007年の9月のことや。前田は7回までに4打席まわってきたけどヒット出んくて、今日はもう無理やろなって感じになっててん。んでも8回裏に、他のメンバーが執念で前田まで回してな、ほんで前田も見事にヒット打ちよったんや。市民球場そらもう、大騒ぎや。印象的やったのが、4番を打ってた新井貴浩(今のカープの監督やね)が、しぶとく粘ってフォアボール取ったんよ。「絶対前田さんまで回す」っていう気持ちが、よう出てたフォアボールやった。なんか、妙によう覚えてんねんな。
マツダスタジアムにも一回だけ行った。エスコンができるまでは、マツダが日本一の球場やった思う。あそこは何て言うても、広島駅から歩いてすぐってとこがええよな。都会のど真ん中に、ちゃんと球場がある。歴史的にも広島って町の発展を考えると、カープって球団はほんま外されへん存在やなって思う。二十歳そこそこの頃、旅行で尾道に行ってな、旅館に泊まったんよ。仲居さんが布団敷きに来てくれたときに、「やっぱり広島の人ってカープファン多いんですか」って僕、ちょっと間の抜けた質問してしもたんよ。そしたら人の良さそうな仲居さんが、ちょっとムキになって「カープを応援せん人は、広島県民やないです」って言わはった。
で、マツダスタジアムに行ったのは、2010年4月2日や。その日付をちゃんと覚えてるのには理由がある。この日行われた「広島対巨人」の試合前、巨人のコーチやった木村拓也が、ノック打ってる最中に倒れはってん。僕が球場着いたときには、ホームベースのあたりに、両チームの選手やスタッフが集まっててな。最初は誰かレジェンドでも来て、みんなで挨拶でもしてるんかと思った。でもそのあと救急車が入ってきて、ああこれは普通ちゃうなって思った。そんときは、まさか木村拓也がクモ膜下出血で倒れたなんて知らんかった。たしか試合中にネットのニュースか何かで知ったはずや。
木村拓也って、名前が名前やから、選手時代から人気あったけど、そのどこでも守れるユーティリティ性と渋いプレイスタイルで、カープ時代からほんまチームに欠かせへん存在やった。巨人にトレードで移ってからは、より一層スタイルに磨きかかってて、引退後は巨人のコーチになったばっかりやった。38歳やった。倒れたその日から数日後、彼が亡くなったって聞いて、僕はすごく悲しかったし、同時になんか啓示を受けたような気持ちにもなった。お子さんもまだ小さかったらしいし、彼の人生はこれからってとこやったと思う。ほんまに無念やったやろな。人って、どこでどうなるかわからん。僕も、このもらった「人生」っていうチャンスを、ちゃんと活かさんとあかんなって思ったんよ。
ほんでも、よりによってカープとジャイアンツの試合の前に、しかも広島で倒れはるって…ようがんばってはった人生やったから、お世話になったみんなの前で倒れはったんやな。そういうとこまで、実に木村拓也やなあって、なんか忘れられへんねんよな。