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想像してみろよ、大丈夫なわけがないだろう?
成瀬英樹
成瀬英樹
1月17日 14:42

1995年の1月10日。君のバンドFOUR TRIPSのチキンジョージでのライブに、レコード会社のトップが観に来たが、その反応はまったく芳しいものではなかった。「お前はアーティストに向いてない」と言われた君は、そのショックから抜け出せずにいた。それでも銀次は君たちを見捨てることはなかった。「成瀬。あきらめずに、どんどん曲を作って他のレコード会社にも聴かせよう!」その言葉に、君は電話口で深く頭を下げた。
 

勝負の年になるはずだった。27歳、年末には28歳になる。この年、デビューを果たせなければ、30が徐々に視界に入ってくる。30でメジャーデビューなんて、ありえない。
 

2年半在籍した吉本興業には、前年末に辞めることを伝えていた。同期のバンド、"brats on B"がデビューに向けて動き出している中、君はもう吉本ではチャンスがないと判断したのだ。プロジェクトのボスである比企は引き止めようとしたが、君はすでに覚悟を決めていた。
 

「僕ら吉本辞めても、絶対に売れますから、まあ見といて下さいよ」
 

君の叩いた大口は、空気を虚しく震わせた。自信があるとかないとかの話ではない。そう言って、君自身の心を奮い立たせる必要があった、それだけなんだろう。
 

1月16日、君は夕方までコンビニでアルバイトをして、その後自宅で作業をしていた。新曲「あきらめない季節」は銀次にも好評だった。ソングライティングの本当のおもしろさと難しさを君に教えてくれたのは銀次だ。彼の期待にこたえたい一心で、アドバイスを元にリライトした。この夜もパソコンのキーボード、エンターキーとデリートキーを何度も叩いた。言葉の中に思いをこめた「時間」を埋めこむ。君がベッドに入ったのはいつものように深夜2時ごろだった。
 

そして1月17日。早朝5時46分。地面の大きな揺れで君は目を覚ました。阪神・淡路大震災。街が壊滅的な被害を受けた瞬間だった。青春を過ごした街、君が大好きだった街が一瞬にしてまるごと、文字通り消えてしまった。
 

君がバンドのメンバーと連絡が取れたのは、震災発生の数日後だった。
 

キーボード担当のaiの家が全壊し、彼女は家族とともに家のそばの公園にテントを張り、近所の人々と焚き火の火を交代で守っていた。何から手をつけたらいいのかわからない状況、電気、ガスのない生活。水道すらないのだ。

吉本興業での最後の出演イベントは震災の数日後だった。君はベース担当の池田のバイクの後ろに乗り、心斎橋筋二丁目劇場に向かった。aiを欠いた3人でのライブとなるが、どうしても舞台に穴けたくなった。こんなときにライブかよ? と君は自問したが、すぐに答えた。「こんなときだから、歌えるやつが歌うんだ」
 

三ノ宮から東へ進む。瓦礫が道路を覆い尽くす。六甲、御影、芦屋、西宮。倒れた高速道路が視界を遮る中、煙が漂い、街全体が灰色に包まれていた。日常が、どれほど脆く儚いものかを思い知らされた。

心斎橋に着くと、そこは神戸と比べて驚くほど通常通りの様子だった。その対比が、君の胸に何とも言えない負の感情を呼び起こした。「大丈夫か? 大変やったな」と言われて、一体なんと答えればいいのか? 想像してみろよ、大丈夫なわけがないだろう?
 

2年半通った心斎橋筋ニ丁目劇場。最後のステージ。aiのいない3人の出演。君はMCでこう言った。「ファンレターやアンケートでよく”FOUR TRIPSの音楽から元気をもらう"と言ってもらえます。みなさん、今日はどうか僕たちをみなさんの笑顔で元気にしてください。なぜか僕たちは今日、うまく笑うことができないんです」
 

アンコールでは、ビートルズの「A Hard Day’s Night」を出演したバンド全員でセッションした。他のバンドのメンバーたちがステージを跳ね回りながら演奏する姿を、君は後ろでギターを弾きながら、ただぼんやりと眺めていた。その光景は、今でも鮮明に君の記憶に刻まれている。

最新作が最高傑作
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
1月15日 12:40

おはようございます!
 

ここ数日、Bingo Crewの仲間たちと力を合わせて、一つの目標に向かって駆け抜けてきました。そしてついに、その努力の結晶が形になりました。
 

シンガー、ソングライター、ミュージシャンたち。みんながそれぞれの才能を持ち寄り、一つの作品を生み出すために全力を尽くしてくれました。そして、共同作業を通じてチームを支えてくれたネロにも、心から感謝しています。
 

今日の配信では、「うたを作る学校」のみんなとこの2曲の誕生を一緒に祝いたいと思います。どのようなストーリーと熱意で作られたのか、ぜひその背景にも触れながらお届けします。
 

皆さんにもこの瞬間を共有していただけたら嬉しいです。配信でお会いしましょう!

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僕の生配信はドキュメンタリー
メンバー クリエーターズ 成瀬英樹ゼミ 〜プロ作曲家養成〜 成瀬英樹ゼミ 分割プラン 旧プロ養成コース
成瀬英樹
成瀬英樹
1月14日 10:17

おはようございます!

昨日――というか、つい先ほどまで朝方にかけて作業しておりました。いよいよ制作も佳境に差しかかり、気合を入れ直しているところです。最近は眠い目をこすりながらも、音楽づくりの楽しさに背中を押されて、ついつい時間を忘れてしまいます。


深夜には「サビ前の一小節のコードをちょっと変えてみよう」という話になり、ものの見事に新しいアイデアが生まれました。自分でも「なぜこのコードを思いつかなかったんだろう!」と悔しさと喜びが入り混じった気持ちになります。さっそく修正ファイルを作り、調整を行って、あれこれ試してみたら予想を超えていい感じに仕上がりました。こういう瞬間って、本当に創作の醍醐味ですよね。


そして、真夜中にはシンガーさんが歌ってくれたボーカルファイルが届きました。いやあ、もうこれが大当たり! 彼女の声が楽曲にぴったりハマっていて、鳥肌が立つほど。これは間違いなく作品の世界観をぐっと引き上げてくれると思います。聴いた瞬間にテンションが上がって、「よし、さらに良いものにしよう」と燃えてきました。


さらに今朝方にはキーボードのパートが送られてきたんですが、これまた素晴らしい仕上がりでして。いつものように頼れる演奏をしてくれる仲間がいると、本当に心強いです。


「レッキング・クルー」という伝説的なスタジオ・ミュージシャン集団がいますが、僕にとってはさしずめ「Bingo Crew」と呼びたくなる最強チーム。毎回わくわくしながら作業を進めています。


さて、今日の配信ではギターを録り直し、別の曲にメロディをつけたりなど、まだまだ盛りだくさんな作業が待ち構えています。

僕の作曲生配信は、いわば制作のドキュメンタリー。生放送で進行をお届けすることで、その場の臨場感や試行錯誤の瞬間をみなさんにリアルタイムで共有しているんです。まさに“マグロ解体ショー”とか“そば打ち”をライブで観るような感覚といったら伝わるでしょうか。いつも応援ありがとうございます。

そんな感じで、今日も朝から張り切ってまいります! 眠気なんて吹き飛ばして、みなさんが楽しみにしてくださる作品をしっかり形にしていきたいと思います。どうぞお付き合いよろしくお願いいたします!

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今日の配信はロングかも
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成瀬英樹
成瀬英樹
1月13日 15:16

お疲れ様です!


佳境の一日目、大変ですが、この感じキライじゃないんですよね。メンバーの方はぜひ配信で応援してくださいね↓

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「虞美人草」は僕も漱石作品で一番好き
成瀬英樹
成瀬英樹
1月13日 4:24

お疲れ様です!
 

今は夜中の2時51分。新曲のキーボードアレンジをFOUR TRIPSのaiさんにお願いしていて、LINEでの問い合わせを受けるために起きて待機しています。

歌詞はAさんから届きました。いつもながら一発で楽曲のキモを掴んで、キラーワードをど真ん中に投げ込んでくれました。やっぱりプロの作詞家は鍛えられ方が全然違います。例えば、彼女の歌詞はどれも核心をついたフレーズで、ただ言葉を並べるのではなく、感情をぐっと引き出してくれるような力があります。ライブで彼女の詞を使った楽曲を披露したとき、観客の反応がすごくて、彼女の表現力に改めて感動したのを思い出しました。「修正あったら言ってください」って彼女は毎回言うけど、アート作品に修正なんて加えられないよ。この詞をさっと書いたのか、それとも年末年始じっくり練り込んだのかはわからないけど(僕はきっと前者だと思う)、どちらにしても彼女の「生き様」が込められている人生分の年数で書かれたものなんだ。お願いしてよかった。本当に素晴らしい曲になりました。
 

今はアレンジの最終の詰めです。僕の作品は、一人で打ち込みで作ることはありません。必ず楽器はいつもの仲間にプレイしてもらっています。一人で作るものには限界があるんですよね。アイデアが「掛け算」にならないんです。
 

2000年頃にいくつかアレンジの仕事をしていたことがあって、その前はバンドのプロデュース的なこともやっていました。バンドのアレンジは、決めたら何度も練習して作り込むものだけど、スタジオミュージシャンを使う局面になると、上手い人たちをブッキングすればアレンジャーはほとんどやることがないんです。ただ全体を見て雰囲気を作ればいい。「結局ミュージシャンの腕なんだな」って妙に腑に落ちたものです。
 

もちろん、一人で全部作る方が早くできるんだけど、つまらないじゃないですか。みんなで作った方が楽しいんですよ。例えば、以前仲間と一緒に楽器のパートを作り込んでいたとき、ドラマーがリズムを少し変えてくれたことで、曲全体が一気に躍動感を増したことがありました。ある時は、ギタリストが「こういうフレーズどう?」って提案してくれて、それが曲の中でハイライトになる部分になったことも。ベーシストがベースラインを工夫して加えてくれると、それだけで楽曲に厚みが出るし、そういった瞬間を共有できるのが何より楽しいんです。一人で最後まで全部作り上げることへの憧れはあるけど、それでも「餅は餅屋」、ベーシストはベーシスト、ドラマーはドラマーがやった方が楽曲に強度が出るって僕は信じています。
 

作詞作曲もそう。一人で全部できるけど、今はBINGO!という作家チームを組んでいるから、できるだけ仲間とチャンスを共有するようにしています。一人でやった方が「分け前」は多いけど、みんなで分け合うことで曲がリリースされた際に一緒に喜べるんです。それだけじゃなく、作家たちがリリースされる曲に名前を残す経験をすることで、一つ山を越えられる。それが何よりの財産になるんだ。
 

そんなわけで、今日の生配信は午後からになるかもしれません。気づいたら今、3時36分。いろいろやってたらあっという間ですよ。それでも、がんばって考えて弾いてくれている仲間たちに感謝しながら、いいプレイが届くのを楽しみに待ちたいと思います。
 

そうそう、Netflixで『阿修羅のごとく』を一気に観ました。この作品は、家族や姉妹の複雑な人間関係を描いた群像劇で、昭和50年代を舞台にした愛憎劇です。特に印象的だったのは、姉妹同士の衝突と和解が交互に描かれるシーンで、感情の揺れ動きが本当にリアルでした。是枝裕和監督作品を彼の母国語で楽しめるのって、村上春樹さんの小説を読むときに感じる嬉しさと似てるかもしれない。僕はオリジナルを未見だったので、ストーリーの展開にもドキドキしながら観ることができました。四姉妹の話というと谷崎潤一郎の『細雪』を思い出しますが、是枝監督の名作『海街diary』も四姉妹の話。その『海街』でも高校生の四女を熱演していた広瀬すずさんが今回も末娘役を演じていました。おっきくなったなあ。

長女の宮沢りえさんの妖艶さに驚きつつ、「ああ、僕はこの人よりずいぶん年上なんだな」と妙に感慨深くなりました。次女の尾野真千子さんと夫婦役の本木雅弘さんの絶妙な掛け合いも印象的。楽しいけど恐ろしくもなるあの夫婦のやり取りが、このドラマの原動力でした。そして何より蒼井優さん。彼女は本当に世界に見つかっちゃうんじゃないかな、と思うほどの存在感。最終話のモノローグには泣けましたね。
 

登場人物で一番感情移入できたのが、國村隼さん演じる四姉妹の父親。娘やそのパートナーたちへの優しい眼差しに、僕もこんなふうに生きたいと思いました。
 

そういえば一年ほど前、宮藤官九郎さんとお酒を飲む機会があったとき、前から聞きたかったことを質問しました。宮藤さんが脚色を担当した映画『69』(村上龍さんの小説を僕は長く愛読していました)で、主人公(妻夫木聡)の父親役である柴田恭兵さんが、息子がとんでもない事件を起こした際言ったにある台詞に感動して(詳細はぜひ映画をみて確認してください、素晴らしいですよ)「ああいう親になろう!」と誓って、それだけは実践できているとの自負があるゆえ、僕にとってとても大切な台詞なんです。
「あの素晴らしい台詞、宮藤さんの創作ですか? 原作にはなかったと思うのですが...」と僕が聞くと、宮藤さん、少しお酒も入っていたので、最初は「んー、どうだったかな」なんて言ってたんですが、しばらくして突然ハッとした顔でこちらを向いて「そうだ!それ原作にはなかった台詞です、僕が作りました!」って思い出してくれて。あれはすごく嬉しい瞬間だったな。
 

ああ、調子に乗って2000文字以上書いちゃいました。こういう日もあっていいか。気づいたら4時を過ぎてますね。シカゴの『長い夜』を過ぎた、って毎回言ってるけど、本当に長い夜でした。さて、次はどんな音楽が生まれるのか、自分でも楽しみです。またみんなとこの旅路を共有できることを願っています。読んでくれてありがとう。


もう少し、がんばります。みんなにいい作品を届けけて、笑顔になってほしいもの。

って言ってたら、ドラマーから最高の音が届きました。餅は、餅屋です。